有価証券報告書から読み解く『役員報酬制度の最新トレンド』(1)~報酬ミックスと業績連動指標~

2021/12/14 石原 有希、諏訪内 翔子
Quick経営トレンド
組織・人事戦略
役員報酬
コーポレートガバナンス

2021年3月1日施行の改正会社法により、取締役の報酬に関するルールが見直されました。具体的には、上場会社等は役員報酬制度に関する方針を取締役会で決定することが義務づけられました。そこで本コラムでは、上場企業における直近の有価証券報告書の記載事項に関する集計結果から、役員報酬制度のトレンドを概説します(2回連載)。

集計対象企業

本コラムでは、企業規模や成長フェーズによって役員報酬制度の傾向は異なると仮定し、対象企業を以下の企業群Aと企業群Bに分け、有価証券報告書の役員報酬に関する記載事項を集計しました1

企業群A:東証1部または東証2部上場企業のうち、売上高3000億円以上の企業(計210社)
企業群B:ジャスダックまたはマザーズ上場企業のうち、2018年4月1日以降上場の企業(計50社)

集計結果

(1)報酬ミックス

昨今の役員報酬の構成は、会社経営における役割や責任等への対価として主に役位別の固定額を支給する「基本報酬」、1年間の成果創出に応じた「短期インセンティブ(STI)2」、1年超の期間における成果創出に応じた「中長期インセンティブ(LTI)3」の3つから構成されるのが一般的です。

企業群Aの平均的な報酬ミックス4は、基本報酬:STI:LTI=約61%:25%:14%でした。STIとLTIを合計したインセンティブの割合が39%と3分の1以上を占めています。一方、企業群Bの平均的な報酬ミックスは、基本報酬:STI:LTI=約94%:5%:1%となり、基本報酬が主となっています。

(2)業績連動指標

STIやLTIの支給額を決定する業績連動指標5を見ると、企業群AにおいてSTIに連動させる指標として最も多かったのは営業利益で、次いで当期純利益、経常利益、売上高、ROE等となっています(【図1】参照)。なお、企業群Bにおいては、業績連動指標の記載がある企業数が少ないものの、傾向は企業群Aと同様でした。

また、LTIに連動させる指標も営業利益が最多でした(【図2】参照)。LTIではROEの採用数が2番目に多いなど一部違いはありますが、代表的な指標はおおむね同様の傾向となっています。さらに、企業群Aのうち、約半数の企業(192社中98社6)が2つ以上の指標を採用しています(企業群Bは、LTIを設定している企業が少ないことから割愛)。

図1 STIに連動される指標、図2 LTIに連動される指標

(注)1.n数は調査対象企業のうち、業績連動指標の記載が明確に確認できた企業。1社で複数指標を設定しているケースあり
2.上記の他に、企業独自の指標等を設定しているケースあり

まとめ:集計結果の考察

企業群Aは業績連動部分の割合が39%と一定の比率を占める一方で、企業群Bはこの割合が6%にとどまっているのは、上場直後の企業はベースとなる基本報酬の設計は完了していても、インセンティブに関する部分は未整備または途上であるケースが多いことが影響しているためと考えられます。

また、業績連動指標としては、STI、LTIともにP/L上の指標が多く使われていることもポイントです。理由としては、P/L上の指標を経営計画におけるKPIとして設定している企業が多いことや、業績向上のインセンティブとして分かりやすい指標であること等が考えられます。

役員報酬制度が、企業価値向上に対するインセンティブとして適切に機能するためには、自社における企業価値の本質を多角的にとらえ、STI、LTIのそれぞれに適切な指標を設定することが望ましいと言えます。

次回は、LTIとして導入が増えている株式報酬についてのトレンドをご紹介します。

 

第2回コラム:有価証券報告書から読み解く『役員報酬制度の最新トレンド』(2)~株式報酬を中心とした中長期インセンティブ~


1 改正会社法施行後の有価証券報告書の内容を確認するため、A,Bともに決算日は2021年3月1日~2021年5月30日の企業を抽出

2 Short‐Term Incentiveの略。以降、短期インセンティブは全てSTIと記載

3 Long‐Term Incentiveの略。以降、中長期インセンティブは全てLTIと記載

4 基本報酬、STI、LTIの支給が全てあり、かつその比率が記載されている企業の平均で、実際の支給金額ではなくポリシー上の構成比率。役位によって比率が異なる場合は当該企業の最上位役位を使用

5 集計は業績指標単位で実施

6 調査対象企業のうち、業績連動指標の記載が明確に確認できた企業を母集団として集計

テーマ・タグから見つける

テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。