グリーン成長戦略を加速させるDXのあり方 ~建設業における「エネルギーの可視化」に求められる取組み~

2022/02/28 河合 一憲
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建設業

再生可能エネルギーを活用した資源政策の検討は、“グリーン社会”実現を目指す国の後押しもあり急速に進んでいます。これを受け企業にとっても脱炭素経営に向けた経営施策の具体化が必要不可欠となっています。脱炭素経営をグリーン社会への実現へと加速させるために有効であるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進で、「自社のデジタル技術やデータをどのように活用すれば、グリーン社会を実現できるか」を検討している途上にある企業も少なくないでしょう。

本コラムでは、グリーン社会の実現に向けた検討領域が多い業種である建設業を取り上げ、DX推進において重要となる検討事項について整理していきます。

建設業におけるDXを活用した情報集約

建設業は施工段階から資材調達、施設運用段階に至るまで脱炭素領域が数多く存在する業種の一つです。さらに、図表1の通り、建物の種別にかかわらずカーボンニュートラル対応が求められていることからも、脱炭素に向けて取り組む範囲が広い業種だとも言えます。

そのうえで、建設業において脱炭素に取り組む際にDX推進が有効であるのは、建設会社で建築物のあらゆる情報を集約したBIM1の導入が進んでいることが理由として挙げられます。BIMのデータを活用することで施工前に環境負荷を予測でき、効率良く脱炭素施策を検討できるからです。BIMは建造物の3D画像から逆算する形で調達コストや仕様の詳細を整理していくことになるため、エコロジー効果創出に向けたシミュレーションに活用することも可能です。つまり、建設業各社はこのBIMをいかに活用するかというところが一つの論点になっていると言えるでしょう。

【図表1】カーボンニュートラルと建設業の接点

図 学校法人と会社法における機関比較

(出所)当社作成

BIMを活用したDX推進における課題と対応策

建設業において、BIMが次世代DXの重要なファクターであることは疑いの余地がありません。ただし、BIMが取得できるのは「施工時データ」ですので、竣工後のデータはBIMから取得することはできません。一方で、施工時の温室効果ガス排出量は建築物のライフサイクル全体でみると10%ほどにすぎず、大部分のエネルギーは建物の運用時に排出されます。そのため、運用時のMEP2(機械・電気・排給水設備衛生関連設備)からのデータを取得しなければ、建造物全体でのエネルギー可視化には不十分と言えます。

それでは、建造物のライフサイクル全体をとらえ、データに基づく取組みを進めていくために、どのようなことを検討しなければならないでしょうか。ここで必要となるのが、「設備の利用モデル」と「利用モデルに基づく排出量計推定ロジック」の活用です。前者については、利用する環境や利用形態などの条件を仮定し、設備活用のオペレーションを想定することを指します。後者は、MEPから取得したデータを基にカーボンフットプリントの算定式を構築し、その解析を行うツール検討の領域になります。言い換えると、BIMデータに何を付加し、どのように分析するかといった「前提」の検討が重要になるということです。

建設業からみる「目指すべきDX」とは

本コラムでは、建設業の事例を通じ、インプット・アウトプットデータを体系化したうえでデータベースを構築し、共通プラットフォームに整備し目指すゴールに向けたロジックを構築するうえで必要となる検討事項について述べました。デジタル化が進展する中、環境対応の領域とDXは、建設業に限らずどの業界においても今後ますます不可分の関係性にあると言って良いでしょう。そのため、今回例示したフローに基づくDX推進は、他業種・他領域においても、今後のDXの保守本流、言い換えれば「目指すべきDX」となりうるのではないでしょうか。


1 Building Information Modeling/Managementの略。国土交通省のBIMガイドラインによると、コンピュータ上に作成した3次元の形状情報に加え、室等の名称・面積、材料・部材の仕様・性能、仕上げ等、 建築物の属性情報を併せ持つ建物情報モデルを構築すること。

2 Mechanical, electrical, and plumbingの略

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