人事が知っておきたいLGBTQ~法律・直近の判例・企業が取り組むべきこと~

2024/06/11 向田 郁美
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LGBTQ[ 1 ]に関する社会的関心は日々高まりつつあり、自身をLGBTQ当事者と認識する割合が約10%であるという調査結果[ 2 ]や、同性間のパートナーシップ制度を導入する自治体数が456に上る[ 3 ]などの動きがあります。特に、2023年度はいわゆる「LGBT理解増進法」の成立、「経済産業省でのトランスジェンダー女性トイレ使用制限事件(以下、経産省トイレ使用制限事件)」に対する最高裁判所の判決など、企業のLGBTQに関する理解や取り組みがより必要になるであろう、大きな出来事がありました。今回は上記の法令や判決を基に、企業として取り組むべきLGBTQ対応を考えていきます。

「理解増進法」の趣旨は

まずは2023年6月23日に公布・施行された、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(以下、理解増進法)」の解説から始めます[ 4 ][ 5 ]。

目的条文では、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に寛容な社会の実現に資する」ことを掲げており、基本理念では、「全ての国民が、その性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものである」と定めています。その中で、企業は「理解の増進に自ら努める」役割があり、例えば「情報提供、研修実施、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備等の必要な措置」が示されています。また、併せて国や地方公共団体の施策に協力する努力も求めています[ 6 ]。

以上の条文から確認できることは、現段階では「企業の努力義務」であり、必ず対応すべき事項としては定められていないということです。ただし、施行後3年をめどとする見直し規程が定められており、2026年ごろをめどに改正が行われる可能性があります。過去に行われてきた法改正では、パワーハラスメントは2020年の労働施策総合推進法改正で企業による防止措置が義務化され[ 7 ]、同年発布された「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(いわゆるセクハラ防止指針)」では、職場におけるセクシュアルハラスメントは被害者の性的指向や性自認にかかわらず、同性に対するものを含むと明記されました[ 8 ]。以上の職場環境における法改正の変遷を考慮すると、今後の法改正によっては、企業がLGBTQに対してより踏み込んだ対策を必要とされることも考えられます。

「経産省トイレ使用制限事件」とは~事件の概要と判決要旨~

次に、「経産省トイレ使用制限事件」について、事件の概要と判決要旨を見ていきます。当該事件は、経済産業省で働く、生物学的な性別が男性であり、性同一性障害との診断を受け女性として生活を送る職員が、職場で女性トイレの使用制限を受けていることに対し、国に慰謝料の支払いを求めた国家賠償請求事件です。
当該事件は、トイレの使用制限は不当とする判決が出た2019年の東京地裁から、国による当該職員のトイレ使用制限を認めた2021年の東京高裁を経て、2023年7月、最高裁にて国の対応は違法であると判決が出ました。
最高裁判決の理由として、

  • 性自認と異なる男性トイレや、離れた階のトイレの使用をせざるを得ないことによる、日常生活の相当の不利益。
  • 女性ホルモン投与などの治療や、性衝動による性暴力の可能性は低いという医師の判断があり、現にトラブルが起きたことがない。

という職員の状況を挙げた他、

  • 職員の執務階の女性トイレ使用に対し、明確に反対する女性職員の存在はうかがわれない。
  • 職員の女性トイレ使用についての説明会から本判決まで4年10カ月の間、改めて女性職員への調査や処遇見直しが行われたことがうかがわれない。

と、職場環境についても言及されています。

また、本判決の大きな特徴が、5人の裁判官全員が補足意見を出したことです。中でも、

  • トランスジェンダーに対する理解不十分は研修で相当程度払拭できるが、研修を実施せずに約5年が経過したことは、多様性を尊重する共生社会の実現に向けた職場環境改善の取り組みとして不十分。
  • 性自認に即して社会生活を送ることは誰にとっても重要な利益で、法的に保護されるべき。
  • 施設管理者は女性職員の理解を得るための努力を行い、徐々にトイレ使用制限を緩和することも十分にあり得た。トランスジェンダーの女性トイレ利用を反対するという前提ではなく、職員にも性的マイノリティーの法益尊重に理解を求め、教育などを通じたプロセスを期待したい。
  • 本判決は経済産業省の一連の対応が評価された結果で、この種の問題に直面する施設管理者、人事担当者などがトランスジェンダーの人々の置かれた立場に十分配慮し、真摯に調整を尽くすべき責務があることが浮き彫りになった。指針や基準が求められるものの、職場や執務状況はさまざまで一律の解決は困難。現時点では本人と他の職員の意見・反応をよく聴取し、職場の環境維持、安全管理の観点などから最適解を探っていく他ない。

と、施設管理者・人事担当者への責務について言及されていることが注目すべき点です[ 9 ]。

事件から企業が考えるべきこと

まず、本判決が必ずしも職場に求められる基準になるわけではない、と理解することが必要です。補足意見でもある通り、職場の環境は千差万別であり、LGBTQ当事者の要望もさまざまです。判決文では、「女性トイレの使用制限という立場を変えず、約5年にわたり状況を改善するための調査や研修などの行動を起こさなかった」という、経済産業省の職場環境改善への姿勢に指摘がありました。企業でも、いずれかの立場に立った一方的な対応や一律の対応ではなく、個別事情に基づき、会社ができる範囲の対応を双方で丁寧に擦り合わせていく姿勢が求められます。

さまざまな立場の社員が生き生きと働く会社を作るため、多様性を理解し尊重する姿勢は今後ますます重要になります。必要に応じて専門家の力も借りながら[ 10 ]、人事担当者として適切な理解と互いの尊重を深めていきましょう。

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1 ]本コラムでは、性的マイノリティーの表現としてLGBTQを使用する。
2 ]電通グループ「電通グループ、『LGBTQ+調査2023』を実施」
https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/001046.html(最終確認日:2024/5/2)
3 ]Marriage For All Japan「日本のパートナーシップ制度」https://www.marriageforall.jp/marriage-equality/japan/(最終確認日:2024/5/2)
4 ]LGBTQなど、用語の解説から行うことでより理解が深まる内容だが、用語そのものの解説は今回のコラムの趣旨とは異なり、かつコラムの大半を用語の解説で割くことになるため、当コラムでは割愛する。
5 ]最近では公的機関も情報を充実させており、例えば東京都では「性的マイノリティに関する企業向けポータルサイト」https://www.lgbtq-company.metro.tokyo.lg.jp/(最終確認日:2024/5/2)にて、各種資料の提供や各企業の事例紹介など、LGBTQの理解につながる情報を提供している。基本的な知識から身につけたい方は参照されたい。
6 ]内閣府「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(令和5年法律第68号)(概要)」https://www8.cao.go.jp/rikaizoshin/law/pdf/gaiyo.pdf(最終確認日:2024/5/2)
7 ]厚生労働省「2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!」https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000683138.pdf(最終確認日:2024/5/2)
8 ]厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)【令和2年6月1日適用】」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605548.pdf(最終確認日:2024/5/2)
9 ]裁判所「令和3年(行ヒ)第285号 行政措置要求判定取消、国家賠償請求事件令和5年7月11日 第三小法廷判決」https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/191/092191_hanrei.pdf(最終確認日:2024/5/2)
10 ]東京都では事業者向けに電話相談窓口を設けている他、各都道府県労働局の総合労働相談コーナーでも相談が可能。

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