TNFDの基礎知識:LEAPアプローチの解説(1) TNFDの開示動向と開示に向けた準備

2024/09/13 長瀬 正和
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2023年9月18日にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の最終提言であるv1.0が公開されてから約1年が経過し、各組織で開示対応が進んでいます。また、サステナビリティ開示基準の包括的なグローバル・ベースラインの開発を推進する国際サステナビリティ基準審議会(以下、ISSB)では、生物多様性、生態系、生態系サービス(BEES)に関連するリスクと機会に関する調査プロジェクトが作業計画に追加されたことから、今後ISSB基準とした開示基準の開発が想定されます。
本コラムでは、現在TNFD開示に向けた検討を進めている組織や、既に開示準備を進めている組織に対して、TNFD開示に向けたポイントを全6回にわたり解説していきます。1回目となる今回は、TNFDの開示動向と開示に向けた準備について解説します。

TNFDとは

TNFDとは、民間企業や金融機関といった組織が、自然資本および生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価し、開示するための枠組みを構築する国際的なイニシアチブになります。TNFDの目的は、資金の流れをネイチャーポジティブに移行させるという観点で、自然関連リスクに関する情報開示フレームワークを構築することです。それにより、世界の金融の流れを、自然にとってマイナスの結果からプラスの結果へとシフトさせることを狙いとしています。また、気候変動、生物多様性などに関する他の国際目標との調和も意識されています。

TNFDに沿った開示を開始することを約束した組織の状況

TNFDサイトにて、2024年または2025年までにTNFDに沿った開示を開始することを約束した組織は、世界全体で424社(2024年8月13日時点)あり、そのうち113社(約27%)を日本の組織が占めています。日本の組織113社をセクター別に見ると、26社(約23%)が金融セクター、次いで17社(約15%)が食品及び飲料セクター、その次に16社(約14%)がインフラセクターであり、上位3セクターで日本の組織の半数を超える59社(約52%)を占めています【図表1】。

【図表1】日本のセクター別TNFD開示約束組織数
日本のセクター別TNFD開示約束組織数
(出所)TNFDウェブサイト[ 1 ]より当社作成

TCFD開示推奨項目との違いと初回TNFD開示に向けた進め方について

TNFDの開示推奨項目では、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)から追加的に開示が求められている3つの項目(人権方針とエンゲージメント、優先地域、上流から下流までのバリューチェーン全体の考慮)があります。いずれも地域視点で依存・インパクト、リスク・機会を特定することが求められており、対応を進めていく上でのポイントとなります。

ここからは、初回TNFD開示をどう進めていくかについて、既に開示している組織の開示対象を参考に確認していきます。多くの組織では、初回開示は事業全体を俯瞰した上で、まずは順序立てて対象事業などを絞りながら開示している状況が見られます。そのため、【図表2】の組織のように、まずは事業のうち、生物多様性や自然資本に大きな依存・インパクトのある事業に絞りながら深掘りを進め、その中で得た知見・経験を基にして、対象事業を徐々に広げていくのがスムーズな進め方であると考えます。

【図表2】日本組織の開示対象例
日本組織の開示対象例
(出所)各組織のウェブサイト[ 2 ]より当社作成

TNFD開示に取りかかる日本の組織の悩みとLEAPアプローチに沿った分析の紹介

TNFDサイトでは、組織での提言対応・開示が進むよう、さまざまなガイダンスが発行されている他、多くのデータツールも紹介されています。しかし、その資料の量は膨大かつ複雑で、現時点において日本語に翻訳されたガイダンスはTNFD「自然関連財務情報開示タスクフォースの提言」にとどまることから、多くの日本の組織がどこからどう取り組んでよいものか、悩まれていることと推測します。
そこで、本コラムでの導入を皮切りに、計6回にわたってTNFDへの開示対応について、LEAPアプローチをベースに整理していきます。

【図表3】LEAPアプローチのステップ
LEAPアプローチのステップ
(出所)TNFDウェブサイト[ 3 ]より当社作成

まとめ

繰り返しになりますが、本コラムでは先行開示企業に倣って、事業全体を俯瞰した上で、まずは順序立てて対象事業を絞りながら、LEAPアプローチをベースにした進め方を整理しています。対象事業を絞ることにより、その後の調査・分析を深掘りすることに時間を使え、しっかりとした調査・分析に裏打ちされた依存・インパクト、リスク・機会を特定することにつながると考えます。結果として、その後の対応策の検討と行動計画の策定も、実行性のある内容となることが期待できるでしょう。また、その経験が次ステップの対象事業の拡大にも活用でき、より効率的に活動が進められると考えます。
スコーピングから始まるLEAPアプローチの各ステップ詳細につきましては、この後、第2回~第6回のコラムで順次解説していきます。

【関連サービス】
自然資源管理(生物多様性、森林、海洋、持続可能な農林水産業、食料・消費者、TNFD)
気候変動(脱炭素、エネルギー、排出量削減戦略、TCFD)

【資料ダウンロード】
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応

【関連レポート・コラム】
TNFD最終提言v1.0の概要
TNFDの基礎知識:最終提言に向けた連載(1)「自然の定義と依存・影響、リスク・機会」
TNFDの基礎知識:最終提言に向けた連載(2)「LEAPアプローチ」
TNFDの基礎知識:最終提言に向けた連載(3)「情報開示の4つの柱と6つの一般要求事項」


1 ]TNFD Global「TNFD Adopters / List of Adopters」https://tnfd.global/engage/tnfd-adopters-list/(最終確認日:2024/8/13)
2 ]味の素グループ「サステナビリティレポート 2023 環境負荷を50%削減」https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/activity/pdf/2023/SR2023jp_environment.pdf#page=34(最終確認日:2024/8/13)
キリングループ「環境報告書2024 TCFD提言 •TNFD提言などに基づいた統合的な環境経営情報開示」https://www.kirinholdings.com/jp/investors/files/pdf/environmental2024_03.pdf(最終確認日:2024/8/13)
積水ハウス株式会社「VALUE REPORT 2024 -OUR ENGAGEMENT」https://www.sekisuihouse.co.jp/company/financial/library/ir_document/2024/_162556/j_ALL_Value+Report+2024.pdf(最終確認日:2024/8/13)
東急不動産ホールディングス「TNFDレポート〜東急不動産ホールディングスグループにおけるネイチャーポジティブへの貢献~(第2版)2024年1月19日」https://tokyu-fudosan-hd-csr.disclosure.site/pdf/environment/tnfd_report_01.pdf(最終確認日:2024/8/13)
3 ]TNFD Global「Four disclosure pillars」https://tnfd.global/(最終確認日:2024/8/13)

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