TNFDの基礎知識:LEAPアプローチの解説(2)スコーピングの解説

2024/09/19 塩見 嵩
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2023年9月に公開された最終提言を受け、企業のTNFD開示が活発化しつつある中で、自然との接点、依存・インパクト、リスクと機会など、自然関連課題を統合的に評価する手法として、LEAPアプローチの使用が推奨されています。全6回のうち2回目となる今回は、LEAPアプローチの入り口である「スコーピング」について解説します。

スコーピングについて

LEAPアプローチにおけるスコーピングとは、簡単にいえば分析の対象範囲について検討することを指します。
主な目的は「作業仮説の構築」と「目標とリソースの調整」の2点であり、素早い事前調査を行うべきとガイドラインで示されています[ 1 ]。
LEAPアプローチによる分析は、自社が操業する地点(例:製造工場など)のみならず、サプライチェーンの上流(例:サプライヤーなど)や下流(例:製品の使用や廃棄など)まで、広範囲での調査が必要となります。そのため、分析の対象範囲とプロジェクト遂行の予算について、経営陣と事務局(分析を進めるチーム)との間での調整が求められますが、スコーピングでは、その調整の基礎となる作業仮説を構築し、組織のリソース(時間や人的資源)をどこに優先させるべきか、という焦点を定めるものになります。

【図表1】LEAPアプローチの概要
LEAPアプローチの概要
(出所)TNFDウェブサイト[ 2 ]より当社仮訳・作成

作業仮説の構築

分析作業をスムーズに進めるためには、社内での共通の理解を得る必要があります。すなわち、上流から下流までの組織の事業活動について、重要な自然関連の依存・インパクト、リスクと機会がありそうな活動を、定量的な財務側面も踏まえた上で把握することが求められているといえます。そのためには、下記事項について事前に検討することが推奨されています。

【図表2】「作業仮説の構築」のポイント
「作業仮説の構築」のポイント
(出所)TNFDウェブサイト[ 1 ]より当社仮訳・作成

仮説構築の作業では全事業を俯瞰した上で、自社の事業の中でも自然関連への依存・インパクトが大きい事業セクターを把握し、セクターに関連するバリューチェーン、地理的位置情報(どの国のどの地域が関連しているか)を認識することが重要となります。

目標とリソースの調整

もう一つの目的として、現在の組織のキャパシティー・スキル・データレベル・目標を考慮した上で、評価を実施するために必要なリソースと時間配分について検討する必要性が示唆されています。すなわち、LEAPアプローチを実施する事務局のステータスを把握し、TNFD開示における重要なステークホルダーは誰を想定し、評価を実施するために必要なリソース(資金、人材、データ)、および分析期間はどれくらいを予定しているか、についての検討です。そのためには、下記事項について事前に検討することが推奨されています。

【図表3】「目標とリソースの調整」のポイント
「目標とリソースの調整」のポイント
(出所)TNFDウェブサイト[ 1 ]より当社仮訳・作成

目標とリソースの調整では、どのようなメンバーが事務局に参画するかがポイントになります。自社のバリューチェーンの上流から下流の状況に精通しているメンバーをアサインすることで、調達に関するデータの入手や、当該拠点へのヒアリングなど、LEAPアプローチのスムーズな分析につながるためです。特に、調達に関するデータの入手では、場合によっては2次サプライヤーなどの情報も必要となり、当該事業のバリューチェーンに詳しいメンバーが参画することが望ましいといえます。

スコーピングを通じた望ましいアウトプット

「作業仮説の構築」と「目標とリソースの調整」の2点について検討した上で、スコーピングを通じた望ましいアウトプットは以下とされています。

【図表4】スコーピングを通じた望ましいアウトプット
スコーピングを通じた望ましいアウトプット
(出所)TNFDウェブサイト[ 1 ]より当社仮訳・作成

すなわち、スコーピングを通じて事業活動と自然資本との関連を俯瞰し、重要な自然関連の依存・インパクト、リスクと機会がありそうな活動を分析対象範囲として絞ることが想定されます。併せて、調査に必要なデータの入手先と組織のリソース(時間や人的資源)をどこに優先的に活用するか、について検討する必要があります。中でもポイントとしては、スコーピング段階で多くの時間や工数を投入し過ぎない点が挙げられます。本段階では分析対象の明確な位置情報が入手可能かどうかの把握にとどめ、ツールを用いた詳細な分析などに工数をかけ過ぎないことが重要と考えられます。

実務的な場面に置き換えてみると、例えば、主力商品がコーヒー飲料の飲料メーカーの場合、スコーピング段階ではどの国・地域からコーヒー豆を調達し、どこに製造拠点があるか。また、調達に関するデータの収集先はどの部門が該当し、どのくらいの拠点から情報を収集するとどのくらいの工数がかかるか、について把握することが最初のステップになるかと思います。

本コラムでは、LEAPアプローチの入り口である「スコーピング」について解説しました。次回のコラムでは、分析の第1段階である「Locate」について解説していきます。

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1 ]TNFD「Guidance on the identification and assessment of nature-related issues: The LEAP approach Version 1.1」https://tnfd.global/wp-content/uploads/2023/08/Guidance_on_the_identification_and_assessment_of_nature-related_Issues_The_TNFD_LEAP_approach_V1.1_October2023.pdf(最終確認日:2024/8/26)
2 ]TNFD「Taskforce on Nature-related Financial Disclosures (TNFD) Recommendations」https://tnfd.global/publication/recommendations-of-the-taskforce-on-nature-related-financial-disclosures/#publication-content(最終確認日:2024/8/26)

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