本連載では多様な分野・主体と連携したユニークな高齢者支援の取り組みを取材し、その内容を「シリーズ：高齢者支援の多様な選択肢」として掲載している。

前回のコラムでは、地元の企業との連携により「はたらく活動」を行っている、社会福祉法人京都福祉サービス協会京都市西院老人デイサービスセンターでの「sitteプロジェクト」の取り組みを紹介した。

今回は、埼玉県の西北部に位置し、四方を山々に囲まれる長瀞町に導入されたウエルシア薬局株式会社の移動販売車「うえたん号」の取り組みを紹介する。

移動販売の停車場所が通いの場に　～生活支援・社会参加・介護予防の融合～
（長瀞町・長瀞町社会福祉協議会・ウエルシア薬局株式会社）

取り組み概要

人口6,363人、高齢化率41.2％の長瀞町（令和7年2月1日時点）。高齢者単身世帯が増える中で、買い物支援や見守り、コロナ禍による社会参加率の低下等が地域の課題となっていた。そうした状況の中、長瀞町は、それらの課題に対応できる一つの取り組みを導入した。ウエルシア薬局株式会社が運営する移動販売車「うえたん号」である。「うえたん号」は、ただの移動販売車ではない。生鮮食品3種に加え、化粧品や医薬品（第1類）の取り扱いも可能となっている。また、光熱費や税金（町県民税や固定資産税等）などの公共料金の支払いにも対応している。さらには、移動販売車に搭載されているモニター越しに、薬剤師等専門職へのオンライン健康・栄養相談を行うことも可能だ。「うえたん号」が停車する場所には、買い物目的以外の住民も多く集まり、おしゃべりのできるサロン（通いの場）へと姿を変える。令和7年4月時点において、33自治体で運行している。

今回は、令和4年11月に全国で2台目となる「うえたん号」の導入を行った埼玉県長瀞町を訪問し、「うえたん号」の運行状況について見学するとともに、長瀞町福祉介護課の太幡氏、長瀞町社会福祉協議会（社協）の野口氏、ウエルシア薬局株式会社の宮﨑氏へのインタビューを実施し、長瀞町での「うえたん号」の導入の経緯や効果、住民の方から寄せられた声などについてお話を伺った。

買い物に課題を抱える高齢者が増えていた

MURC：長瀞町で「うえたん号」を導入したきっかけについて教えていただけますか。
社協（野口）：長瀞町にはスーパーやコンビニなど買い物ができるお店が数軒しかありません。秩父鉄道を除いて、町内を移動する路線バス等の公共交通が整備されていないため、自動車を運転できない高齢者などは、気軽にスーパーやコンビニなどに買い物に行けない環境で、いわゆる「買い物弱者」が多い状況でした。

令和3年4月頃に、町内の高齢者が必要としている支援について把握することを目的としたアンケートを実施したところ、「買い物支援」という回答を多くいただきました。また、地域に支え合いの輪を広げていくために話し合う場として地域住民や団体、生活支援コーディネーター、町職員等から構成される生活支援体制整備協議体「ささえ愛ながとろ」（生活支援体制整備事業）での話し合いの中でも、「移動販売を希望する方が多くいる」といった声が上がっていました。それらを受け、長瀞町全域を巡回できるような移動販売業者はいないか、町内外の状況について情報収集を進めました。

そのような中、令和4年5月に、ウエルシア薬局が静岡県島田市で移動販売車「うえたん号」第1号として運行を開始するということを耳にしました。元々、ウエルシア薬局長瀞店とは、独居高齢者を対象とした店舗での買い物ツアーなどに協力してもらうなど、つながりがあったこともあり、「うえたん号」の島田市での運行状況等について、ウエルシア薬局の宮﨑さんにお話を伺い、長瀞町にも「あったらいいな。」と思っていました。

長瀞町（太幡）：町としては、コロナ禍における外出自粛等により、高齢者の交流機会が減少していたことから、高齢者が近隣住民との交流機会を増やす手段として、通いの場の整備を進めていく必要があると認識していましたので、移動販売が通いの場づくりのきっかけになればよいなと考えました。

移動販売の誘致は、一般的に企画部門や産業部門によって行われることが多いと思いますが、町では、そのような背景から、高齢者福祉部門（福祉介護課）が主導して行いました。公平性を担保するために、移動販売を行う事業者の選定は公募制とし、令和4年6月下旬に、「長瀞町通いの場づくり事業補助金」として、通いの場に移動販売車を巡回させることができる事業者を公募しました。

公募条件としては、①生鮮食品3種類（農産物、畜産物、水産物）の取り扱いが可能、②オンライン上での健康相談対応が可能、③キャッシュレス決済が可能、④5年間継続することなどを提示しました。また、補助対象としては、移動販売車の整備費（補助率： 1/2（上限額あり））としました。

ウエルシア薬局（宮﨑）：当社では、地域包括ケアシステムの一つの機能となるべく、地域におけるさまざまな課題を地域で解決していくためのコミュニティスペースとして、全国のウエルシア薬局の店舗内に「ウエルカフェ」を設置してきました。「ウエルカフェ」は、健康体操の実施や認知症カフェの開設等、主に健康増進や福祉、文化活動などを行う場として活用されています。また、健康体操等が終わった後は、店舗で買い物を行うことも可能です。

しかし、今後、移動が困難な（店舗に来られなくなる）高齢者が増えていくことが見込まれる中で、店舗に来てもらう前提の「ウエルカフェ」だけでは高齢者のニーズに応えることはできません。そこで、移動販売によってアウトリーチを行い、買い物支援や健康増進に資する取り組みも行ってはどうかと考え、「うえたん号」を始めることにしました。

「うえたん号」は、買い物支援等だけでなく、人が集まるという点から、地域コミュニティの活性につながると考えていたので、長瀞町の公募条件を伺った時にはまさに当社が進めていこうと考えていた取り組みと合致したので、ぜひ協力ができたらと思って応募しました。

長瀞町（太幡）：令和4年8月中旬、公募の結果、実施事業者を「ウエルシア薬局株式会社」に決定し、令和4年11月30日より「うえたん号」の運行を開始しました。

MURC：「長瀞町通いの場づくり事業補助金」として、ウエルシア薬局が採択され、初年度の移動販売車の整備費について補助を行ったということですが、令和5年度以降はどのような補助をされているのでしょうか。
長瀞町（太幡）：補助を行ったのは令和4年度のみで、令和5年度以降は、特に補助等は行っていません。

ウエルシア薬局（宮﨑）：「うえたん号」の運行は、地域づくりをコンセプトに、当社と行政・社協、地域住民が一体となって取り組む地域協働事業です。「うえたん号」の運営方針は、ウエルシア薬局だけで決めるのではなく、必ず運行する自治体職員や社会福祉協議会の方々とさまざまな協議を経て決めるようにしています。

長瀞町の「うえたん号」

「うえたん号」の停車場所（＝通いの場）は、高齢者が容易に通える範囲に設定

MURC：「うえたん号」が停車する場所は、買い物目的以外の住民の方も集まり、おしゃべりができるサロン（通いの場）になっていると感じました。現在（令和6年11月時点）、長瀞町内に44カ所（人口1万人に換算すると約68カ所）の停車場所が設定されていますが、週１回開催される通いの場としてカウントすると、かなり多く設定されていると思います。停車場所は、どのように決められたのですか。
※なお、長瀞町には、「うえたん号」の停車場所44カ所の他にも、ふれあいいきいきサロンや「元気モリモリ体操（筋力アップ）」などを行う通いの場がある。
社協（野口）：停車場所は、集会所や団地の敷地内等、高齢者が容易に歩いて通える範囲を前提として、生活支援コーディネーターが中心となって停車場所の設置計画をしています。基本的に、停車場所には歩いて通うことになるので、介護予防にも効果があると思っています。運行は平日週5回（月曜日～金曜日）で、1日あたり8～10カ所に停車します。

地域の方々のさまざまな声を聴き、長瀞町とも相談しながら、その時必要だと思われる場所に設定するようにしています。「うえたん号」を導入してから約2年がたちますが、これまで運行表を5回更新しています。

運行表を記載したチラシは、全戸配布しています。台風や大雨等、運行が心配と思われた際は、店舗に電話してもらうようにお願いしています。たまに、高齢者の方から「明日から入院するのでお休みします」といった連絡も入ります。ただの移動販売ではなく、みんなが集まる場として認識されていると実感しています。

ウエルシア薬局（宮﨑）：停車場所は社協と長瀞町に決めてもらっています。ウエルシア薬局としては、「地域づくり」をコンセプトとして「うえたん号」を運営しているので、人が集まりやすいところに限定するといった利益重視とするのではなく、社協や長瀞町から要望があれば、人の少ない地域にも出向くようにしています。

MURC：各停車場所には何人くらいの人が来ているのでしょうか。
社協（野口）：日によって変動がありますが、停車場所１カ所あたり、大体5～10人の方が来ています。住民の方たちが自主的に集会所などに集まって行う「元気モリモリ体操（筋力アップ）」というものがありますが、その体操が終わる時間帯に合わせてやって来る「うえたん号」の周りには10人を超える方が集まることもあります。

社協で停車場所に3～4人が座れるベンチを設置している場所もあり、そこでは「うえたん号」が次の停車場所に向けて去った後も井戸端会議が続いています。

ウエルシア薬局（宮﨑）：「うえたん号」で買い物される方は年々増加しており、令和5年度は、長瀞町全体で延べ1万200人程度の方に買い物をしていただきました。1カ月あたりに換算すると、延べ800～900人程度になります。ただ、これはあくまで買い物をした方の人数なので、実際にはもっと多くの人が集まっています。

また、長瀞町では、高齢者を対象としたスマホ講座を行っていることもあって、スマホ利用率が高く、キャッシュレス決済の利用者も他の自治体よりも多いと感じています。

一部の停車場所では、介護予防に資する知識を習得できる講座も不定期で実施

MURC：「うえたん号」の利用者を増やすためにどのような工夫をされていますか。
ウエルシア薬局（宮﨑）：一部の停車場所では、健康活動として、当社の薬剤師、栄養士等の専門職やメーカーの担当者を招いてイベント・講座を実施することもあります。例えば、「腸活」をテーマにした時は、メーカーに腸活のメリットや重要性について講演をしてもらい、その後、集まった方々に商品の試飲等をしてもらいました。住民にとっては各企業のノウハウや健康に関する新しい情報を得られますし、企業としてはエンドユーザーにプロモーションを行い、直接反応を得られるので、まさに、Win-Winの関係です。メーカーは、当社が調整して招いています。

「腸活」の他にも、経口補水液とスポーツドリンクとの違いを伝える講座や筋力維持に役立つプロテインの重要性を伝える講座等も実施しました。

MURC：そうした講座等も行われているということで、男性の利用者も多いのではないでしょうか。
社協（野口）：一般的に、通いの場というと女性の比率が高い傾向が見られますが、「うえたん号」は買い物や講座等も目的の中に含まれていますので、正確には把握できていませんが、比較的、男性も多くなっています。

社協や役場だけではメーカーなどの民間企業を招くことはなかなか難しいので、ウエルシア薬局さんと連携できて大変助かっています。

ドライバーや地域住民、生活支援コーディネーターによる高齢者の見守り機能

MURC：移動販売は買い物支援だけでなく、高齢者の見守り機能も担うといった事例をよく耳にしますが、「うえたん号」は通いの場という位置づけもあり、単なる移動販売よりも、高齢者の見守り効果が期待できそうですね。
社協（野口）：ドライバーから、「あのおばあちゃんが元気なさそうだった」、「常連のおじいちゃんをしばらく見かけていない」など、何かいつもと様子が違う場合には、すぐに私に連絡が入るようになっています。心配な場合には、生活支援コーディネーターから地域包括支援センターに連絡して、状況を共有するようにしています。また、ドライバーだけでなく、各停車場所の常連の方から連絡をもらうこともあります。

MURC：ドライバーの方が地域の見守り機能としてかなり重要な役割を担われていると感じました。また、ドライバーと生活支援コーディネーターが密に連携できているということも素晴らしいと感じました。「うえたん号」のドライバーはどのような方が担われているのでしょうか。

ウエルシア薬局（宮﨑）：ドライバーは、ウエルシア薬局が雇用し、現在、2名体制となっています。ドライバーとして実働する前には、ウエルシア薬局の店舗において接客等の研修も受講いただいています。

社協（野口）：ドライバーは、各停車場所の利用者とコミュニケーションをうまく取られており、地域にもなじみ、利用者からはなくてはならない存在になっています。

その他、見守りだけでなく、互助の活動も生まれています。例えば、買った商品が重くて自力で持ち帰れない場合などには、一緒に来た近所の住民が自宅まで運んだり、お互いに声をかけ合ったり、気にかけ合いながら「うえたん号」を利用しています。

長瀞町の「うえたん号」の
ドライバー

「うえたん号」を導入したことで、介護保険サービスが不要になったという事例も

MURC：長瀞町に「うえたん号」を導入して約2年がたちますが、導入後、どのような効果がありましたか。

社協（野口）：「うえたん号」の利用者からは、「『うえたん号』のおかげで、週1回は近所の誰かと会って話せるようになったので嬉しい」「歩いて行ける距離にスーパーやコンビニ等がないので、助かっている」などといった声をいただいています。

また、いくつかの停車場所には、自然発生的に世話役になる人もいます。中には、世話役の人と一緒に「うえたん号」の停車場所に行くようになったことで、訪問介護による「買い物支援」が不要になり、介護保険サービスを卒業した方もいます。

近所の人と会話しながら買い物を楽しむ

長瀞町（太幡）：現時点では、「うえたん号」導入前後の要介護認定率やサービス受給率の変化、医療・介護保険財政への影響等について分析できていない状況です。今後、関係団体と協力し効果検証を行う予定です。

将来的には、「うえたん号」でオンライン診療等にも対応する予定

MURC：「うえたん号」には、大型モニターが搭載されていますね。どのように活用されているのでしょうか。

ウエルシア薬局（宮﨑）：「うえたん号」に搭載された大型モニターには、サイネージ機能があり、町役場からのお知らせも見られます。さらに、オンラインカタログ機能もあります。欲しい物が「うえたん号」にない時には、カタログから見つけていただき、ドライバーに注文することも可能です。注文いただいた商品は、次週「うえたん号」に載せて持って来ることになります。

また、大型モニターを通じて、薬剤師や栄養士等によるオンライン健康・栄養相談ができるようになっていて、たまに使われる方がいらっしゃいます。将来的には、オンライン診療にも対応する計画としています。

今後も、高齢者を地域で支える体制づくりに向けて、さまざまな取り組みを推進していく予定です。

モニターに映し出された
町役場からのお知らせ

取材を終えて

日本の多くの中山間地域等では、高齢化率が4割を超える市町村も珍しくなく、高齢単身世帯も増加傾向にある。一方で、生産年齢人口の減少は年々加速しており、都市部等と比較すると、高齢者を支える地域資源は不足している。生活支援の不足や在宅生活への不安感から、在宅生活を諦める高齢者も多く存在している。

地域に「うえたん号」を導入することで、サロンや体操教室などの通いの場への参加を希望しない人であっても、買い物という一つの目的があることで、特段気負うことなく、週1回、「うえたん号」の停車場所まで歩いて行き、自然と地域の方々とつながれるようになる。まさに、今回の長瀞町の取り組みは、生活支援（買い物、見守り、自然と生まれる助け合い）や社会参加、介護予防の融合といえる。

今回お話を伺ったウエルシア薬局株式会社の宮﨑氏によれば、地域づくりに一緒に取り組む行政担当者がいて、すでにウエルシア薬局の店舗がある自治体であれば、「うえたん号」を導入することは可能とのことであった。

多くの高齢者が住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを継続できるように、こういった民間企業と行政、社会福祉団体（社会福祉協議会等）、生活支援コーディネーター、地域住民が連携した取り組みが広がっていくとよいと感じた。

高齢者支援の多様な選択肢（5）移動販売の停車場所が通いの場に ～生活支援・社会参加・介護予防の融合～

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