なぜギリシャ危機は終息しないのか~ 求められる「ソルベンシー問題」への支援 ~

2015/06/19 土田 陽介
調査レポート

○欧州債務問題は、2009年10月に発覚したギリシャの財政統計の改ざんに端を発するものである。以降、EUとIMFに対して金融支援を要請した国は5ヶ国(キプロス、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン)存在する。しかしながら、ギリシャだけが金融支援を卒業できておらず、経済危機が続いている。その理由は、経済危機の根幹にある累積債務危機が収束していないこと、言い換えればギリシャの累積債務危機に対してEUの支援戦略アプローチ(資金提供に応じる代わりに、緊縮財政と構造改革の同時遂行を義務付ける)が機能していないことにあると考えられる。

○一般的に、政府の累積債務危機の性質は、流動性(リクイディティ)問題と支払能力(ソルベンシー)問題に大別される。5ヶ国の累積債務危機を性格付けした場合、ギリシャ以外の4ヶ国の場合は当初からリクイディティ問題的であり、ギリシャの場合はソルベンシー問題的であったと整理できる。典型的な債務の「自己増殖プロセス」に陥ったギリシャの場合、資金提供によって一時的に資金繰りを改善させたとしても、事態の改善は見込み難い状況であったと考えられる。

○各国で緊縮財政への不満が強まるなかで、構造改革へのハードルは徐々に高まっているといわざるをえない。反EUを掲げる極右・極左政党の台頭が懸念される環境の下で、緊縮財政を維持したまま構造改革を推進することは、政治的な暴発が生じることにつながりかねない。なかでもギリシャの政治情勢は、経済危機の長期化を受けて危機的な状態である。構造改革を推進させるためには、やはり政治危機と経済危機を終息させることが先決となるだろう。

○ギリシャの経済危機を落ち着かせるためには、これまでのような資金提供を梃子に緊縮財政と構造改革の同時遂行を求めるアプローチではなく、デットオーバーハング問題を軽減するための追加的な債務再編が必要となるだろう。追加的な資金提供で資金繰りを一時的に改善させても、ギリシャの支払能力が弱まっているなかでは、結局は無に帰す公算が大きい。EUは、債務再編を認める対価として、ギリシャ側の構造改革を促す方向に、その支援戦略アプローチを転じていくことが望まれる。

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