○足元、邦銀の外貨調達環境が悪化している。邦銀がドル調達において活用する外貨スワップ取引における上乗せ分となるベーシススワップの推移を見ると、2014年半ば以降上昇し、直近では100bp近くに達している。この水準は過去最高水準であり、こうした事態を憂慮する声が近年強まっている。
○外貨調達コスト上昇の背景は下記の4点
①日本企業の旺盛な外貨資金需要:近年日本企業による海外進出が活発化し、海外企業の買収が目立つ。また、邦銀においても、海外での外貨貸出を積極的に取り組んだ結果、海外貸出残高が増加している。日本の一般事業法人のみならず、邦銀についても、外貨資金需要が旺盛だったことが、外貨調達コストを上昇させる要因として働いたと思われる。
②長期間に渡る低金利政策・量的緩和政策によるイールドカーブのフラット化に伴う国内投資機会の喪失:日本では、早い時期に低金利政策や量的緩和政策が導入され、今日に至るまで長期間続けられているため、イールドカーブは世界でも異例なぐらいフラット化が進んだ。この結果、銀行のみならず保険や年金といった機関投資家は、国内での投資利回りの確保が難しくなっている。
③米MMFへの新規制導入:米証券取引委員会(SEC)はMMFに関する新たな規則を導入したが、MMFの基準価額への変動制導入と、解約手数料の賦課・解約制限の設定の影響が大きく、当該規制の対象となったプライムMMFと非課税MMFから規制対象外である政府債MMFへの大量シフトが発生している。特に、プライムMMFは、運用先の約8割が銀行発行のCD・CPであり、邦銀のドル資金調達にとって重要なルートである。従って、今回のMMFの新規制導入は、邦銀のドル調達ルートを細めている。
④国際金融規制:バーゼル3や欧米諸国独自の規制がこれまで導入されているが、基本的には、自己資本規制・流動性規制強化、デリバティブズ規制強化を通じてリスクをとりにくくしている。つまり、米銀等は総与信を増大させにくくなり、海外にドル資金を供給しにくくなっている。
○2016年に入り、米国の中長期金利が著しく低下している。特に長期金利の低下が著しく、中長期のスプレッドが著しく縮小しているため、中期での調達が多い通貨スワップで調達した場合の採算確保が難しい状況である。同様に、格付け別のスプレッドを見ると、AAA格、BBB格やハイイールドのスプレッドがすべて急速に低下している。調達コストの上昇に見合うだけの運用利回りの確保は、リスクをとったとしても難しい環境にある。
○ドル市場での運用利回りの確保が難しい中での調達コストの上昇は邦銀にとっては痛手である。通貨スワップでの調達コストは、規制など構造的要因も働いており簡単には低下しないため、ドル市場での収益環境の悪化した状態はしばらく続こう。
○こうした事態を解消するためには、①経済対策により国内投資機会を創出し、過剰な外貨需要を引き下げること、②マイナス金利の深堀を回避しつつ、限界を迎えつつある量的緩和政策の若干の縮小により、極端なイールドカーブのフラット化を是正すること、は外貨調達コストの低下に寄与しよう。
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