通貨危機後のトルコで強まる金融抑圧 ~懸念される金融危機リスク~

2019/10/25 土田 陽介
調査レポート
海外マクロ経済

○通貨危機から一年余りが経ったトルコであるが、景気は依然厳しい。そうした中でエルドアン政権は、市場の4割近いシェアを持つ国有の三大銀行を通じて貸出金利を低く誘導することで、景気の刺激を試みている。
○エルドアン政権は19年に入り、国有三大銀行に対してローンの金利の引き下げを指示した。そして政権の意向を受けた国有三大銀行は、民間銀行よりも低い金利のローンを提供するようになった。優良な顧客の流出を防ぎたい民間銀行もこの動きに追随した結果、スピルオーバー効果が生じて金利の低下が促され、貸付金利と政策金利の間で逆ザヤが発生する事態となっている。
○景気を優先して金融(銀行)部門にコストを負わせる姿は、1970年代まで開発途上国を中心に行われていた「金融抑圧」または「人為的低金利政策」の構図と非常によく似ている。そうした環境が続く限り、銀行の経営は着実に蝕まれていく。それが今後も続くようであるならば、銀行の経営不安を起点とする金融危機が生じ、それが通貨危機の再燃を呼び起こすというエルドアン政権にとって最悪のシナリオが実現化することになると警戒される。
○前倒しがない限り、トルコの任期満了に伴う次期の国政選挙は2023年に予定されており、またエルドアン大統領の任期も翌2024年までとなる。大統領に対する有権者の不満はくすぶるが、一方で有力なライバルがいないことも事実である。政治的な安定が見込まれるこの間に、政権がどれだけ経済運営の正常化を進めることができるかが、今後のトルコ経済の動向を決めることになる。

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