今月のグラフ(2020年8月)雇用の悪化をどこまで抑えられるか

2020/08/06 中塚 伸幸
今月のグラフ
国内マクロ経済

今後の経済を展望する上での重要な鍵は雇用の悪化がどこまで進むかということだろう。4-6月期の実質GDPは前期比で年率30%近い大幅な落ち込みとなった見込みであるが、その一方、6月までの雇用関連の指標をみてみると、悪化はしているがまだ何とか踏ん張っている状況にある。

6月の失業率は2.8%と、コロナ前水準よりは高いものの、5月の2.9%からは僅かに低下した。失業者の数も6月時点で194万人と、3月からは20万人程度増加しているが、前月比では若干減少している。こうした変動をやや詳しくみてみると、就業者の数は緊急事態宣言下の4月に107万人減少したが、それがそのまま失業者となったわけではなく、非労働力人口が94万人増加した。つまり、女性や高齢者を中心に、職を失ったものの新たな職探しはせずに労働市場から退出した人が多かったとみられる。ただその後、5月、6月と就業者は微増に転じ、非労働力人口も約30万人減少した。また、職はあるが仕事はしていない「休業者」が4月には前月から約400万人増加し、失業者予備軍として懸念されたが、6月には休業者は236万人まで減少している。これは、経済活動再開で仕事が復活したこととあわせて、外食宅配のような自営業的な働き方が拡大したことも影響していよう。

このように、今のところ雇用悪化はある程度抑えられているが、背景には倒産件数が目立って増加していないことがある。6月の倒産件数は780件で、昨年の水準(月平均700件)から大きく増加しているわけではない(図表1)。これは一つには雇用調整助成金や持続化給付金などの所得補填政策の効果があろう。さらに、緊急の制度融資など資金繰り支援策も寄与したとみられる。日銀短観の6月調査では、企業の資金繰りは悪化しているものの、まずまずの水準は維持しており、リーマンショック時に比べると相対的にはまだ余裕がある(図表2)。

リーマンショック時は2008年から09年前半にかけて倒産が増加し、それとともに失業者は約100万人増加した。現在の状況はまだそこまで至っていないが、瀬戸際にある。足もと、消費、生産など経済活動は全体的に4-6月期を底に緩やかに回復に向かっているが、業種によって差はあり、運輸、旅行、外食など接触型の非製造業は厳しい状況が続こう。今後、業績回復の遅れから、耐えきれずに倒産し、結果失業が増えることは一定程度避けられまい。ただ、景気が底打ちし緩やかに反転することを前提として、①金融面での資金繰り支援の継続、②生産性向上にも繋がる効果的な所得・資本補填政策、③ITを活用した新たな事業の創出による雇用吸収を組み合わせることによって、リーマン時ほどの雇用の悪化は抑えられる可能性もある。

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