今月のグラフ(2020年10月)ウィズコロナで拡大した中国の経常収支黒字

2020/10/01 中塚 伸幸
今月のグラフ
国内マクロ経済

中国の20年4-6月期の経常収支は1,102億ドル(11.6兆円)の黒字と、直前1-3月期の赤字から黒字に転じたばかりか、2008年以来となる1千億ドル超の大幅な黒字となった(図表1)。中国は近年、「世界の工場」として欧米ほか各地域に工業製品を輸出し、多額の貿易黒字を計上し続けてきた。それが、1-3月期はコロナ禍のために生産活動が停止し輸出が低迷した結果、貿易黒字が急減して経常赤字となったものである。しかしながら、4-6月期は一転、生産が急回復するとともに海外経済も徐々に持ち直し、貿易黒字は再び拡大した。その後、7月以降の通関ベースの統計でも、輸出は堅調で貿易黒字も高い水準にある。このことは、中国が他国に先駆けてコロナショックからの回復軌道にあることを示すものであり、世界経済にとっては心強い材料といえよう。

もうひとつ、見逃せないのがサービス収支の赤字の縮小である。中国は貿易収支では黒字基調である一方、サービス収支は2010年代に入ってから一貫して赤字基調にあり、年々それが拡大する傾向にあった。19年通年のサービス収支の赤字額は貿易黒字額の6割にのぼっていた。ところが、20年4-6月期にはサービス収支の赤字額は295億ドルと19年の四半期平均額653億ドルの半分以下の水準まで縮小し、このことが経常収支の黒字拡大に大きく寄与したのである。

そしてサービス収支の赤字縮小は、中国人の海外旅行が激減し、旅行収支の赤字幅が縮小したことが主因である(図表2)。もともとサービス収支の赤字の8割強が旅行収支の赤字によるものであったが、20年4-6月期の旅行収支赤字は19年平均と比べて約350億ドル減少し、サービス収支全体の赤字もほぼ同じだけ減少している。つまりはコロナ禍が経常黒字拡大をもたらしたといえよう。

今後を展望すると、ワクチンの普及によって海外との往来が復活し、中国からの旅行出国がコロナ前水準に戻るには、まだ時間を要すると見込まれる。また、旅行収支の支払には留学生の授業料や生活費も含まれるが、コロナで対面授業が再開されないことや米国の対中姿勢強硬化で留学生受け入れが厳しくなっていることもこれから影響してくるかもしれない。

旅行収支支払の減少は輸入の減少であり、中国のGDP成長率を押し上げる一因にもなろう。一方、中国のサービス収支赤字縮小の裏側には、日本やタイなどこれまで中国人旅行者によるインバウド消費の恩恵に浴してきた国々が、その消失によって苦境に直面している現実がある。中国にとっては経常黒字の減少トレンドに歯止めがかかることは悪い話ではなさそうだが、日本にとっては厳しい状況がしばらく続くことになろう。

テーマ・タグから見つける

テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。