問題の所在
グローバル化が進み、市場は言うに及ばず、サプライチェーンは網の目のように世界中に張り巡らされている。その結果、地域間、国家間の競争や対立はこれまで以上に企業経営に大きな影響を与えるようになった。こうした事業環境変化に晒されているのはグローバル展開をしている一部の大企業だけではなく、重要なサプライチェーン上の役割を果たしている中小企業にとっても無視できないものとなっている。
経済安全保障がクローズアップされたのは初めてではないが、トランプ政権時代にアメリカと中国の競争がより熾烈となったことや、複雑化する国際情勢に鑑み、日本でも経済安全保障に関する議論が盛んに行われるようになっている。注目すべきは、2021年に成長戦略実行計画、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)、統合イノベーション戦略2021等において、経済安全保障が柱の1つとして取り上げられたことである。その後、岸田総理大臣を本部長とする新しい資本主義実現会議が2021年11月に決定した緊急提言では、経済安全保障を推進する法案策定が盛り込まれ、2022年5月には経済安全保障推進法(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律)が国会で可決されることとなった。
知的財産制度との関連では、経済安全保障推進法が、特許出願の非公開についての制度整備に触れていることで、法案段階から注目されていたが、経済安全保障に係る政策・制度は、国家安全保障を念頭におきつつも、領域的には競争政策や競争法の領域とも交錯するし、我が国においても成長戦略や経済財政政策、イノベーション戦略等の文脈の政策上の柱とされていることからも明らかなように、産業政策や科学技術政策等とも交錯するものである。こうした議論において蓄積のあるアメリカにおいて、こうした交錯領域についての議論がこれまでにも行われてきたことから、アメリカにおける議論を概観することは日本における議論の参考にもなると思われる。急速に変化する国際情勢に対応して成立した経済安全保障推進法であるが、議論すべき論点はある程度普遍性のあるものが多い。そこで、既に同法は成立したものの、今後の運用や更なる制度整備を検討する観点からもこれまでの議論における論点を整理することは有益である。
また事業環境が刻一刻と変化する中、企業における長期的な事業戦略を考える際にも、持続可能なイノベーションの仕組みを確保しつつ、自らが将来においてビジネスを行う市場を創造していくことが求められている。その際、グローバルな経済社会情勢を見極めながらの難しいかじ取りが求められる所であるが、そのための知財戦略を検討する際にも、経済安全保障を巡る動向は重要なファクターとなるため、グローバル知財戦略を考える上でも本稿のテーマは重要となる。
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