ナッジを用いた固定資産税の口座振替勧奨~横浜市戸塚区におけるフィールド実証~

2021/03/25 小林 庸平、西畑 壮哉、石川 貴之
ナッジ・行動科学
税制
自治体

1.はじめに

現在、横浜市戸塚区では約95,000人の固定資産税(土地家屋・償却資産含む)の納税義務者を有しており、納付書(金融機関及びコンビニエンスストア)・口座振替・クレジットカード等で納付することができる。しかし、各期の納期限までに納付されなかった場合、納期限の約1ヵ月後に督促状を発送している。
督促状発送後、速やかに納付されているケースも多いことから、納付書で納付している人が納付書の紛失や納期限の失念等によって納期内に納付されないケースが一定数あると推察されるため、これらの納税者が納付方法を口座振替にすることで納期内納付率が高まれば、行政としても督促状の発送や滞納整理等にかかるコスト削減につながり、固定資産税納税者としても納付の手間や延滞金支払いのコストを削減することにつながることが見込まれる1
そこで本稿では、横浜市戸塚区の固定資産税新規納税者(2020年度の対象者3,184人)に対して、行動科学の知見を活用した口座振替納付の勧奨2によって、どの程度口座振替の申込率が高まるかを、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)によって定量的に検証し、今後の政策改善への示唆を得ることを目的とする。近年、行動科学の知見の政策活用が進んでおり、選択の自由を保ちつつ、個人がより賢明な行動を選択できるよう働きかける「ナッジ」によって課題解決を図る例が増えている。本稿は、「ナッジ」の活用により、追加的な費用を抑えつつ、どの程度口座振替の申込率を向上させることができるかを検証したものである。
本稿の構成は以下の通りである。第2節では、口座振替勧奨の因果関係を特定するための実証デザインを紹介し、具体的な勧奨内容について整理する。第3節では、口座振替の申込データを用いて、行動科学の知見を活用した口座振替勧奨の効果を分析する。第4節では、分析結果の含意と今後の課題を整理する。

(続きは全文紹介をご覧ください)


1 固定資産税を口座振替で納付する場合の納期内納付率はほぼ100%である。
2 本実証のナッジの設計や分析においては、Behavioural Insights Teamシドニーオフィスの助言を得た。

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