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Afterコロナを見据えた海外トレーニー制度の再考【後編】

~海外トレーニー制度の効果最大化のための取り組み~

2021/12/13
大坪 翔一

1. はじめに

前編では、海外トレーニー制度のねらいと効果について整理を行った。Afterコロナにおいては、感染症リスクに向き合いつつ将来の経営幹部候補を育成する必要がある。その実現には、海外トレーニー制度の「短期間効果最大化」が求められることは、前編にて解説した通りである。

後編となる本レポートでは、海外トレーニー制度の効果を最大化する方法について考察する。結論から先に述べると、基本的なポイントを忠実に押さえた取り組みがこれまで以上に重要になる。そのうえで、「短期化」「厳選化」といったAfterコロナの変化に合わせ、変革を推進することが求められる。

このため、以下本文には基本的事項が多く含まれるが、自社でこれらを実践できているか、改めて精査する機会にしていただけると幸甚である。

2. 海外トレーニー制度の効果を最大化するための施策

海外トレーニー制度を短期化する場合、その効果を最大化するためにはどのような取り組みが必要だろうか。下の図は、派遣前、派遣中、帰任後の各フェーズにおける施策と、トレーニー、派遣元上司、派遣先上司の三者の関わり及び人事部門の役割を整理したものである。以下に各フェーズの具体的な施策と人事部門の役割について解説する。

【図表1】海外トレーニー制度の各フェーズでの施策と関係者の関わり

図 】海外トレーニー制度の各フェーズでの施策と関係者の関わり

(出所)当社作成

(1) トレーニー派遣前の施策

■ モチベーションとポテンシャルの二面でトレーニーを選定する

派遣人数の「厳選化」が進む場合、特に重要度が増すのはトレーニーの選定だ。選定において重要なのは、モチベーションとポテンシャルの2つである。どちらかでも欠けてしまうと、短期間で確実性の高い効果の創出は難しい。

筆者のよく知るA社では、海外トレーニーの選定基準として意欲を重視する制度を過去に運用しており、数年前までは、意欲さえあれば語学力等を問わずに1年間海外に派遣することもあった。当然、海外トレーニー全員がそうであったわけではないが、毎年1~2割はこうした「意欲120%、ポテンシャル未知数」の対象者も派遣していた。もし、「派遣期間の前半は語学力向上に努め、後半である程度の成果を上げて帰任すればよい」という想定であれば、この選定基準でも問題ない。しかし、Afterコロナで「短期間効果最大化」を目指すのであれば、このような選定基準を見直す必要があるだろう。

トレーニーを選抜する方法によっても、留意する点が異なる。「公募選抜型」の場合は、自身から立候補しているためモチベーションには問題がないことが多い。ただし、現職場や現在の業務に不満や不安を抱えていて、いわゆる現実逃避のために立候補することも考えられるため、希望理由を明らかにするレポートを申請段階で提出してもらい、モチベーションを測ることも有効である。

逆に、対象者を会社が指名する「アサイン型」の場合は、モチベーションに注意する必要がある。派遣元上司はトレーニーに対して、派遣のねらいや期待、帰任後の育成プラン・キャリアイメージを共有し、トレーニー自身の意欲を高めることが重要だ。さらに付け加えるならば、「海外に行きたいのに選ばれなかった人」の存在にも留意し、こうした従業員のモチベーション管理にも気をつけたい。トレーニー選抜の要件を明確に伝え、本人の意向をしっかり聴き、どうすれば来期以降選抜され得るか説明することが肝要だろう。

なお、ポテンシャルに関しては納得感と公平感のある基準を設け対応したい。海外で成果を上げるためには、日本本社での仕事を一通り覚え、一人前になっていることが条件になるだろう。そのため、直近数回の人事評価等を見極めてポテンシャルを判断する必要がある。語学力に関しては、今の時代、日本国内にいても十分スキルアップは可能だ。海外派遣後に語学力向上に時間を費やしたり、語学力不足を理由に本来のミッション推進が滞ったりするのは非常にもったいない。TOEICスコア等の語学に関しての選抜基準を設けることも合理的であろう。

■ ミッションを明確化しアクションプランを作成する (トレーニーと派遣元上司の関わり)

「公募選抜型」「アサイン型」いずれの場合にせよ、トレーニーがミッションをしっかりと理解し、アクションプランを自身で考えることが重要である。将来の経営幹部候補として育成するためには、チャレンジングなミッションを会社が設定することが必要だろう。しかし、一方的にミッションを与えるのでは、トレーニーの自主性が損なわれることもある。そのような場合には、大きなテーマは会社が提示しつつ、ミッションの明文化をトレーニーに委ねるといった方法も有効である。そして、トレーニー自身に海外に飛び出て何ができるのかを考えさせ、アクションプランを作成してもらうことで、トレーニーの主体性をより高めることができる。ここでの上司の役割は、よりチャレンジングなアクションプランになるよう支援することである。同時に、Afterコロナで派遣期間が「短期間化」することも踏まえ、トレーニー期間の評価項目についても派遣前に共通認識を持っておくことが大切である。

トレーニーが、自身の言葉でミッションおよびアクションプランを語れる状態にしておくことが派遣前の1つのゴールになる。

■ ジョブディスクリプションを作成する (派遣元上司と派遣先上司の関わり)

トレーニーの選定と同時に必要なことは派遣先との調整だ。人事部門と派遣元上司の役割分担は各企業の判断によるが、派遣元上司と派遣先上司の意思疎通は重視すべきである。なぜなら、現地でのトレーニーの実質的な業務のコントロールは派遣先上司に委ねられるからだ。誤解を恐れず言うと、派遣後のトレーニーを生かすも殺すも派遣先上司次第であり、海外トレーニー制度の効果に大きな影響を与える存在ともいえる。派遣元上司がトレーニーの育成を担う責任者として、「派遣のねらい」や「期待するトレーニーの成長イメージ」を派遣先上司に伝えることが肝要である。

ここで筆者の経験上おすすめしたいのはトレーニーのジョブディスクリプション(職務記述書)を派遣先上司に作成してもらうことだ。このメリットは2つある。

まず1つ目は派遣先上司の主体性の向上である。ジョブディスクリプションを作成するにあたって、派遣先上司はトレーニーの業務について真剣に考える必要がある。派遣元上司と意思疎通した「派遣のねらい」や「トレーニーの成長イメージ」を踏まえて作成してもらうことが有効だ。これにより、トレーニーの着任後に「トレーニーを放置してしまう」、「トレーニーに雑多な作業ばかりをお願いしてしまう」といったことが起こるリスクを避けることができる。

2つ目のメリットは、トレーニー、派遣元上司、派遣先上司の三者で派遣前に共通認識を持てることである。ジョブディスクリプションとして明文化することで具体的にジョブ(職務)を把握でき、必要に応じて事前に調整もできる。トレーニーはこのジョブディスクリプションを確認したうえで、自身のアクションプランを作成することが望ましいだろう。さらに、ジョブディスクリプションはトレーニー本人と派遣先上司の間での派遣前のコミュニケーションの土台にもなる。これは派遣前の最も重要な点でもあるが、詳説は下段に譲る。

■ 派遣前のコミュニケーションにより合意形成を行う (トレーニーと派遣先上司の関わり)

これまでの派遣の際、トレーニーと派遣先上司のコミュニケーションが派遣後に初めてスタートするというケースはなかっただろうか。もしあったとすれば、その点は大いに見直しの余地がある。Afterコロナで派遣期間の「短期間化」が進む場合、派遣前におけるトレーニーと派遣先上司のコミュニケーションの重要度が格段に高まるからだ。

まず、必ず実施したいことは、現地での業務やミッション、アクションプランについて、トレーニーと派遣先上司との間で十分にコミュニケーションを取り、合意形成することだ。この場で、派遣先上司は、ジョブディスクリプションの内容やトレーニーへの期待について説明する。トレーニーは自身で明文化したミッションやアクションプランを自分の言葉で説明する。このプロセスを通じて、お互いに派遣後の業務のイメージをすり合わせるのだ。

筆者の場合、トレーニーとして英国に赴任する前に派遣先上司が日本本社に来社する機会があったため、その際に対面で十分なコミュニケーションを取ることができた。ここでミッションやアクションプランについて合意形成できたことが、約半年という短期間の中での効果的なトレーニー経験につながったと考えている。

海外での生活立ち上げや、新たな生活環境・職場環境への適応には思いのほか時間を要する。しかもこれらは、現地への到着後にしか進められない。そのため、派遣期間を最大限有効活用するためには、「派遣前に実行可能な手続きやコミュニケーションはすべて派遣前に行う」という姿勢が重要になる。

たとえば、派遣先の同僚やキーパーソンとのコミュニケーションは、到着後に進めるケースが多いかと思う。筆者の場合もそうであった。しかし今後、「短期間効果最大化」を強力に推進するには、これらもオンラインで出国前に実施することも有効な方法になるだろう。コロナ禍を経験した今、オンラインでのコミュニケーションがより一般的になっているため、実施のハードルは下がっているはずだ。こうした取り組みが、派遣後の円滑なスタートダッシュにつながり、結果的にトレーニー研修の成果の最大化に寄与する。短期化する派遣期間の中で成果を上げるには、派遣前から現地との意思疎通をいかに密に図れるかが鍵を握るといえる。

(2) トレーニー派遣中の施策

■ トレーニーのチャレンジングな活動を支援し、モニタリングする

トレーニーにとっての効果を最大化するためには、トレーニーがチャレンジングな経験と成功体験を多く積めることが何より重要である。短期化する派遣期間で成果を創出するためには、トレーニーは派遣先上司・派遣元上司のそれぞれと定期的な面談を持つことが必要だ。面談の場では、上司はアクションプランの進捗を確認し、トレーニーの自主性を尊重しつつ、必要に応じて支援したり、より難しい課題への挑戦を促したりすることが期待される。同時に、事前に共有している評価項目に基づき、トレーニーをモニタリングし評価することも忘れてはならない。

筆者の場合、2週間に1回のペースで派遣先上司との面談を実施していた。この面談の場で、現地での仕事の進め方について相談をしたり、社内の適切な協力者を紹介してもらったりすることで、アクションプランを前に進めることができ、成功体験にもつながった。派遣元上司とは、メールで週報のやり取りをしていたこともあり、オンライン面談の機会は2ヶ月に1回程度であったが、やり取りの中で、新たな課題を与えられることも度々あった。これにより、トレーニー経験がよりチャレンジングなものになっていたことが、今振り返ると印象的である。

自社における派遣期間や状況に応じて、面談の頻度を派遣前に定めておくことが望ましいだろう。

■ 派遣元への学びの還元と派遣先への貢献

派遣中には、トレーニー自身が一方的に受け身で学ぶのではなく、トレーニー側から派遣元や派遣先に対してどのような貢献ができるかについても考えたい。

派遣元に対しては、自身の学びを随時還元することが良い影響を生む。ある企業では、海外研修レポートを毎月社内SNSで写真付きで投稿するようにトレーニーに指示している。これにより、リアルタイムで生き生きとした報告が派遣元企業全体に共有され、派遣元従業員のグローバル意識向上に寄与している。

派遣先に対しては、自身の専門分野での貢献に加えて、企業理念の共有といった面での貢献も考えられる。この点は本章第4節の「人事部門の役割」で詳説する。

(3) トレーニー帰任後の施策

■ トレーニーの評価

「将来のグローバル経営幹部の候補者母集団形成」というねらいを達成するためには、帰任後のトレーニーの評価が欠かせない。短い期間の中でどのような成果を上げることができたのか、という観点は当然重要である。しかし、海外ではさまざまな予期せぬ外部要因により、計画通りのアウトプットを創出できないケースが多いことにも留意すべきだろう。そのため、「ミッション達成に向けたプロセス」も重視して評価を行うことが望ましい。派遣元上司が評価を行うにあたっては、トレーニーと派遣先上司の両者と密なコミュニケーションを取ることが重要だ。

トレーニーには、まず自己評価をしてもらったうえで、個別に面談の機会を設けたい。評価の項目や面談での聞き取り項目については、自社に適した共通のフォーマットを準備することが望ましい。定性的な内容に関しては、一例ではあるが、以下のような内容をトレーニーに語ってもらい、異文化コミュニケーション力やグローバルリーダーシップについて評価をすることが効果的である。

  • ミッション達成にあたってどのような障壁があったか?どのようにしてその障壁を乗り越えようと取り組んだか?
  • 派遣先の従業員の協力を得られたか?協力を得るためにどのような働きかけを行ったか?
  • 派遣先の仕事の進め方には、日本とどのような違いがあったか?どのようにしてその違いに適応したか?

派遣先上司からは、定量的評価と定性的評価コメントを提出してもらうことが重要である。これも自社に適した評価フォーマットを準備しておくことが望ましいだろう。

派遣元上司は、トレーニーと派遣先上司の両者とのやりとりを通して、評価を決定し、今後のトレーニー育成につなげることが重要である。たとえば、将来の経営幹部候補として十分に見込みがあるということであれば、次は海外出向人材としてのルートを準備し、継続的に動機付けを行うことが大切である。

■ トレーニーのリテンション

海外トレーニー制度の長期的なねらいは、帰任者が自社で働き続けて初めて達成される。そのため、帰任者のリテンション(離職防止)は重要な課題の1つである。派遣中の経験が活かせるポジションへの配置や、適切な処遇の設定、モチベーションが断絶しない仕組みづくりなど、リテンションのための取り組みはさまざまあるが、詳細の説明は、紙幅の都合上、本レポートでは割愛する。代わりに、B社の好事例を1つ紹介したい。

B社では、帰国後1年以内の帰任者に対して2日間のフォローアップ研修を実施している。本研修の特徴は、海外出向を経験した上位職の社員をメンターとして各班につけることだ。メンターの主な役割は、帰任者の不安や悩みを聴き、自身の経験をもとに助言することだ。研修の後半では、受講者は、メンターの助言を受けながら、帰任後の業務におけるミッションや今後のキャリアビジョンを考える。この研修により、帰任者が自社における「海外経験の意味づけ」を深く考える機会が創出されていることがポイントだ。さらに、B社では2日間の本研修を研修施設に泊まり込みで行っているため、懇親会の時間等を通して海外経験者のネットワーク形成の機会にもなっている。

この事例のように、自社に合ったフォローアップの場を創出し、リテンションに努めることも重要である。

(4) 人事部門の役割

最後に、派遣前から帰任後の全体を通しての人事部門の役割について2点解説したい。

1つ目はこれまでに説明した、トレーニー、派遣先上司、派遣元上司の関わりが、円滑に実施されるような仕組みを作ることである。以下に挙げるような内容を、人事部門主導で検討し、自社に適した形で提供することが重要だ。

  • トレーニーの選定基準の明確化
  • トレーニーと派遣元上司向けの派遣前オリエンテーションの開催
  • 派遣までのTo Do一覧の作成
  • トレーニーのアクションプランシートや報告書、帰任後の評価シート等、共通フォーマットの作成

2つ目はトレーニー向けの派遣前教育や帰任後研修の実施である。

派遣前には、異文化理解やリスクマネジメントの教育は当然重要であるが、ここでは派遣先への企業文化や企業理念の共有を図るための事前教育を強調したい。

一例としてC社の取り組みを紹介する。C社では海外トレーニーの事前教育に「海外トレーニー向けフィロソフィー研修(2日程)」を組み込んでいる。Day1は人事部の講義や参加者同士のディスカッションを経て、自社のこれまでの歩みや企業理念に込められた想いを再確認する、インプット重視の内容にしている。派遣直前期に実施するDay2では、各トレーニーが英語もしくは派遣先の言語で、自社の企業理念に関して説明し、他のトレーニーや人事担当者からの質問に対応する。これはつまり、派遣先で自社の理念を伝える練習の場だ。C社では、この2度にわたる事前研修を通して、「企業理念を派遣先で共有すること」を人事部門からのミッションとしてトレーニーに与え、意識づけを強化している。同時に、派遣先で自社の企業理念を伝えるための英語の資料や映像ツールを人事部から提供していることもポイントだ。

これは、トレーニーによる派遣先への貢献を人事部が支援する好事例の1つだろう。それだけでなく、トレーニーの自社へのエンゲージメント向上、企業理念の海外拠点への浸透、一体感の醸成などに効果のある取り組みとして参考になるのではないだろうか。

帰任後の研修については、リテンションにもつながる取り組みを創意工夫して行うことが重要だ。詳細については前段で解説した通りである。

3. おわりに

新型コロナウイルスの世界的感染拡大は、海外トレーニー制度を強制的中断に追い込んだ。ワクチンの普及によりAfterコロナの到来が現実味を増しつつある現状(2021年12月時点)でも、新型コロナウイルスが世界的にいつ終息するかを予測することは依然困難だ。

しかし、グローバル人材育成は待ったなしの経営課題である。この変化の時代において、海外トレーニーを含めた海外経験者の担う役割はさらに重要なものになっていくことは間違いないだろう。

ここで改めて、前編冒頭での問いかけを繰り返したい。

  • 自社はなぜ海外トレーニーを派遣し続けるのか
  • BeforeコロナとAfterコロナで海外トレーニー制度のあり方は変わるか
  • どうすれば海外トレーニー制度の効果を最大化できるか

Afterコロナを見据える今こそ、こうした問いに向き合い、段階的な準備をしっかりと行いながらグローバル人材育成に向けた変革を推進することが望まれる。

 

【関連レポートはこちらから】

Afterコロナを見据えた海外トレーニー制度の再考【前編】~海外トレーニー制度のねらいと効果~(2021年12月8日)

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大坪 翔一

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