自社の状況に合わせた ジョブ型人材マネジメント導入に向けたヒント職務等級人事制度の導入と人材マネジメントをさらに機能させるための施策

2022/07/11 三城 圭太、桑野 大吾
人材マネジメント
組織・人事戦略
ジョブ型

1. はじめに

(1) アフターコロナを見据えた日本企業の人材マネジメント課題

2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大によって企業を取り巻く事業環境や労働者のワークスタイルが一変し、各社はテレワーク等の柔軟な働き方に対応する人事施策に取り組んできた。同時に、人材不足・硬直化した組織・低い生産性・多様性欠如などの人材マネジメントにおける課題が顕在化している。これらは、感染症等と直接の因果関係はないものの、コロナ禍が課題を浮き彫りにした側面もある。

依然としてコロナ収束の先行きが見通せない中、環境変化による将来の不透明さも手伝い、企業は成長への次なる一手として人材マネジメントの改革を模索している。当社が2022年1月に実施した中小企業対象の成長戦略に関するアンケート調査では、今後重点的に対応すべき取り組みとして、「組織・人事戦略、人材育成」と回答した企業が最多であった【図表1】。また、実際にコンサルティングの現場でも、大企業を中心に既に人事領域の構造改革に着手しているケースが多く、今後は未着手の企業も追随していくと予想される。

【図表1】今後の事業展開に向けて重点的に対応すべき取り組み

グラフ 今後の事業展開に向けて重点的に対応すべき取り組み

(出所)「アフターコロナを見据えた《中堅・中小企業》の成長戦略アンケート調査」当社, 2022

(2) 改革の手段としてのジョブ型雇用の組み入れ

人材マネジメントの構造改革をするうえで着目されている切り口の一つが、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行である。本レポートでは、「ジョブ型雇用」の定義や詳細な考察などは省略するが、新聞や専門誌でもこの1~2年で職務給やジョブディスクリプション(職務記述書)等に関する先進事例を目にする機会が多くなっている。経団連は自社に適したジョブ型雇用の組み入れを推奨しており、2021年版の経営労働政策特別委員会報告では「総合的に勘案しながら検討することが有益」とし、2022年版では「導入・活用を検討する必要がある」と明記している。

一方、企業の動きをみると、ジョブ型雇用の施策が広く浸透しているとは言い難い。当社が2021年8月に実施した企業人事担当者向けのサーベイでは、多くの企業がジョブ型に関する施策にこれから取り組む状況であることがわかった。結果の一例として、職務等級人事制度の導入割合(部分導入を含む)が参加企業の38%だった中、当該人事制度を「導入済」の企業においても「ジョブディスクリプション」は半数弱、「ジョブポスティング(社内公募制度)」は過半数が導入していなかった【図表2】。

【図表2】「ジョブ型雇用」に関連する人材マネジメント施策の実施状況

グラフ 「ジョブ型雇用」に関連する人材マネジメント施策の実施状況

(出所)「ジョブ型雇用の実態調査」当社, 2021

2. 日本企業における職務等級人事制度の導入

(1) 日本企業における職務等級人事制度の導入形態とは

上記サーベイの結果からも、日本企業がジョブ型雇用の組み入れを考える場合、「ジョブディスクリプションの作成」や「公募制度の導入」ではなく基幹人事制度の改定が施策の第一候補として挙がりやすいことが示唆される。具体的には、今後必要とする人材に対応する雇用枠組みの実現、職責に応じた処遇の実現や年功人事の払拭などを目的に、職務等級人事制度を導入することが一般的である。職務等級人事制度とは「人の保有能力」ではなく「職務(ポジション)」を基準に社内の等級格付を行う制度であり、労働市場における職務価値や社内におけるポジションの重要度に即した処遇の適正化が期待できる。ただし、これまで人事改革を行ってこなかった日本企業では導入前後の変化の大きさや、運用の柔軟性に課題やリスクを感じ、二の足を踏むことも多い。

職務等級人事制度の導入にあたっては、自社を取り巻く環境や改革の目的に即した改定モデルを検討することが肝要である。同じ「職務等級人事制度」でも【図表3】で示す機能のオプションがあり、欧米企業のような原理原則型の方法だけではなく、制度移行や運用に配慮してソフトランディングで導入する方法もある。なお、現在日本企業では全従業員を一気に導入対象とはせず管理職から導入する進め方が一般的である。また、外部人材の採用・確保の観点から一般社員層にも導入する必要がある企業では、DX領域の人材や研究職など、特定職務のみに対して職務軸の処遇をする事例がよく見られる。処遇コンセプトや報酬管理ルールの大幅な変更をしなければ根本的な課題解決ができないケースがあるものの、導入方法については十分な検討が必要である。

【図表3】職務等級人事制度で想定される導入の選択肢

表 職務等級人事制度で想定される導入の選択肢

(出所)当社作成

(2) 職務等級人事制度および「職務評価」とは

職務を基準とする等級格付を行うため欠かせないのが「職務評価」である。職務評価とは社内の各ポジションが持つ職務の価値を測定する仕組みを指しており、「ポジションに就いている人」ではなく「そのポジションにおいて求められる職務の内容」を評価の対象とする。職務評価を実施することで、現在役職に就いている者の年次や評価等によらない純粋なポジション自体の職務価値が明らかとなる。この評価結果によって社内での相対的な差が明らかとなるため、その差を反映する形で処遇が決定されることになる。

また職務評価を実施する上では、それぞれの企業の実態に合わせ評価の要素や尺度を検討することが有用である。当社では「Triple Cubic Approach」という方法を用いた職務評価を行っている【図表4】。職務の構成要素を「インプット」「プロセス」「アウトプット」の3要素に区分した上で、最終的には9つの基準で職務の価値を点数化する仕組みとなっており、これら9つの基準やそれぞれの尺度は、各社の実態に即してカスタマイズ可能である。

【図表4】当社が行う職務評価の考え方(Triple Cubic Approach)

図 当社が行う職務評価の考え方

(出所)当社作成

3. ジョブ型人材マネジメントの施策

(1) 人材マネジメントをさらに機能させるための施策とは

職務等級人事制度はジョブ型雇用を組み入れるうえでの基本骨格となるが、制度の導入は人材マネジメント改革の一部分に過ぎない。【図表5】で示す通り、人材マネジメントには採用や育成等の人事施策も含まれる。自社の目指す人材マネジメントを機能させるためには、こうした基幹人事制度以外の施策もあわせて考えていくことが重要である。

【図表5】ジョブ型人材マネジメントの全体像

図 ジョブ型人材マネジメントの全体像

(出所)当社作成

 【図表5】の各機能領域における具体的な施策の例を【図表6】に示している。ジョブ型雇用への移行の意図に関わらず、多様な働き方の整備CDP(キャリアデベロップメントプログラム)による自己申告等を実施する企業も見られるが、ジョブ型雇用を実現するうえでは、新卒一括採用ジョブローテーション等、日本の人事運用の慣習を見直すことも重要な論点となる。

【図表6】ジョブ型雇用において検討される人材マネジメント施策例

分類 項目 概説
組織設計/
要員計画
ジョブに基づく要員計画 現場に人事権を与え、組織戦略に基づき事業部単位で必要な人員体制を定義する
設置ポジションの見直し 組織の方針に基づき、必要のないポジションは廃止する
風土改革 エンゲージメント
マネジメント
社員が仕事に対する活力や熱意、組織に対する愛着や帰属意識を持てるように施策を実施する
多様な働き方の整備 社員属性・働き方(場所・時間)の多様性を許容する仕組みを整備する
採用 新卒一括採用の見直し 通年採用・キャリア採用等を取り入れ、ポジションの要件に合う人材は現場主体で採用する
リファラル採用 自社の社員あるいはその関係者から、友人・知人を採用候補者として紹介してもらう
人材育成 オンボーディング 採用した人材が早期に活躍するための受入れ施策を実施する
社員のリスキル 社内での価値創出に必要な知識・スキルの習得を促す
配置・任免 ジョブポスティング
(公募制)
空いたポジションの候補者を社内に募る仕組み。社員は自らの意志で応募できる
CDPでの自己申告 本人のキャリア意向を定期的に確認し、配置・任免などに反映する

(出所)当社作成

(2) 目的に応じたジョブディスクリプションの活用

職務等級人事制度の議論に欠かせないジョブディスクリプションは職務内容の定義以外にも広い活用の仕方があり、具体的にはキャリア採用やジョブポスティング、キャリア開発などの場面での利用が想定される。

キャリア採用やジョブポスティングは、ジョブ型の人材マネジメントではどちらも空席ポジションに適任者を配置するために人材を確保する機能として位置づけられ、両者の違いは人材プールを社外と社内いずれに求めるかという点にある。ジョブディスクリプションに各ポジションを務めるために必要な経験やスキル等の要件を明文化すれば、採用活動を行う際、候補者とのコミュニケーションがスムーズになることが期待される。また、ジョブディスクリプションを社内イントラネットで職種のリストとして開示できれば、キャリア開発への活用が期待される。社員はこのリストを通して「全社にどのようなポジションがあるか」「それぞれのポジションではどのような知識・スキルが求められているか」を知ることができる。これを参照して自身のキャリア形成に役立てることも可能だ。

上記のジョブディスクリプションの例のように、職務等級人事制度は他の人材マネジメント施策と関連づけることでさらに有効に機能する。ただし、注意すべきは、ここまで挙げた施策は職務等級人事制度を導入する場合に必ず併用するわけではないという点である。各種施策が企業文化や組織の将来像に合うかどうかは目的に応じて各社各様であるため、多くの施策の中から自社に必要なものを選択して実施することが重要である。

4. 最後に

本レポートで説明した職務等級人事制度やジョブ型雇用の各施策は、あくまで企業が抱える人材マネジメント課題を解決するための手段であり、導入そのものが目的・ゴールではない。企業ごとに課題が異なる状況下では、必要な人事施策も当然異なるはずであり、変革を進めるスピードにも差がある。画一的な「ジョブ型」を目指した改革を進めるのではなく、自社の内部環境や目指す姿に即して人材マネジメント施策を立案・推進する姿勢が求められる。

【資料ダウンロード】
ジョブ型人材マネジメントのための職務等級人事制度ソリューションはこちら

ジョブ型人材マネジメントの導入に関して更なる情報が必要な場合は、当社執筆の『ジョブ型雇用入門』(労務行政、2022年3月)も参照いただきたい。

「2021年版 経営労働政策特別委員会報告」(2021年1月19日)および「2022年版 経営労働政策特別委員会報告」(2022年1月18日)

執筆者

  • 三城 圭太

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第3部

    プリンシパル

    三城 圭太
  • 桑野 大吾

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第1部

    コンサルタント

    桑野 大吾
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