任意の指名委員会・報酬委員会のイマ(2022年)~(2)委員会の開示状況~

2023/02/21 花井 宏介、納見 一輝
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上場企業における直近の有価証券報告書に関する集計結果から、「任意の指名委員会・報酬委員会のイマ」を概説するコラムです。前回は任意の委員会の在り方や構成員の任命状況について紹介しました(前回のコラムはこちら)。第2回は、開示状況について解説します。

調査概要

集計対象企業および調査項目

今回は、プライム市場およびスタンダード市場における時価総額上位100社(2022年6月30日時点)のうち、任意の委員会設置企業(プライム市場:73社、スタンダード市場:50社)の有価証券報告書をもとに、2022年11月に公表された『「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案』[](以下、内閣府令の改正案)で、新たに開示が求められる「活動状況」の開示状況を集計しました。なお、内閣府令の改正案は2023年3月31日以降に終了する事業年度に関する有価証券報告書からの適用が予定されており、本集計は開示が義務付けられる前の有価証券報告書を基にしたものである点、留意ください。

集計結果

(1)任意の指名委員会・報酬委員会に関する開示を取り巻く状況

任意の指名委員会・報酬委員会に関する開示については、コーポレートガバナンス報告書において、委員会の活動状況等を記載することが望ましいとされていましたが、有価証券報告書では、多くの開示は義務付けられていませんでした。

しかし、2022年11月に公表された内閣府令の改正案では、有価証券報告書に「最近事業年度における提出会社の取締役会、指名委員会等設置会社における指名委員会及び報酬委員会並びに企業統治に関し提出会社が任意に設置する委員会(指名委員会等設置会社における指名委員会又は報酬委員会に相当する任意の委員会を含む)の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、個々の取締役又は委員の出席状況等)を記載すること」と示されました。

(2)任意の指名委員会・報酬委員会に関する開示状況

任意の委員会の開催頻度および委員の出席状況については、【図表1】および【図表2】の通り、現状では開示が進んでいるとは言いがたく、スタンダード市場ではその傾向がより顕著となっています。また、委員会の種類別に比較すると、報酬委員会は指名委員会に比べ開示が進んでいると言えます。有価証券報告書で既に開示が求められている役員の報酬額の決定過程の一部として、これらの項目を開示している企業が一定数存在していることが一因として考えられます。

【図表1】開催頻度の開示状況
開催頻度の開示状況
(出所)当社作成

 

【図表2】委員の出席状況の開示状況
委員の出席状況の開示状況
(出所)当社作成

各委員会における具体的な検討内容についても、【図表3】の通り、十分な開示がなされていないというのが現状です。

具体的な検討内容の開示が必ずしも義務ではない状況のなか、実質的な取り組みが不十分な状態で開示を行うことやセンシティブな情報を多く含む内容を具体的に開示することに対する企業側の躊躇が、低開示率の要因の1つとして考えられます。(「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」[]でも、指名委員会に関する情報は「後継者候補の競争やモチベーション、社内の雰囲気なども考慮すべきデリケートな事項であり、個別事項の開示は外部に開示しても支障がない範囲で行うことが適切である」とされています。)

なお、指名に関する検討内容を具体的に開示している企業では「役員人事(社長・CEO/取締役/監査役/執行役員)の選定に関する審議」、「後継者計画に関する審議」、「スキルマトリクスに関する審議」といった内容の記載が見られました。

【図表3】具体的な検討内容の開示状況[] []
具体的な検討内容の開示状況
(出所)当社作成

まとめ

任意の指名委員会・報酬委員会に関する開示が進むにつれ、各社における運営状況、すなわち、実質の伴った委員会運営を行っている企業と、形式的な対応にとどまっている企業の差が浮き彫りになると想定されるでしょう。


[] 『「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案』(2022年11月)
[] 「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(2022年7月19日)
[] 有価証券報告書において、当年度に検討した具体的な内容の記載がある企業を集計
[] 任意の指名委員会と任意の報酬委員会をまとめて設置している企業については、指名に関する検討内容および報酬に関する検討内容の両方のn数として集計

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