東証の要請を契機とした低PBR改善に向けた経営改革

2023/05/30 柏原 雄一郎
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東京証券取引所は2023年3月、プライムとスタンダードに上場する企業に対して、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を求める通知を出しました。特にPBR(株価純資産倍率)が長期にわたって1倍を下回る企業などに、中長期の価値創造に向けて市場評価を引き上げるための具体策を開示・実行するよう、強く要請しています。低迷する日本の株式市場のテコ入れ・活性化を急務とする東証の要請に対し、企業は具体的にどのように対応していくべきでしょうか。本コラムでは、東証から発表された低PBR改善に向けた要請内容を踏まえ、改善につながる取り組みについて解説します。

要請を契機に経営陣が主導した全社的な取り組みが必要

今回の要請を受け、これまで市場評価を高めるための十分な取り組みができていなかった各社の反応は、まちまちといった状況です。全社的な対応のためプロジェクト立ち上げに動き出している企業もあれば、「まずは様子見」「手が回らない」といった反応も見られます。東証からの要請を真摯に受け止めると同時に経営全般にわたる改革の契機と捉えて、自社の成長戦略や経営基盤のアップデートなど全社的な取り組みとして推進・実行していかなければ、中長期の価値創造はもとより、低PBRからの脱却を果たすことは難しいでしょう。

資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応の要請内容

東証から発表された要請内容では、対応すべき一連の取り組みについて、PDCAの枠組み(現状分析、計画策定・開示、取り組みの実行)に沿う形で、それぞれのポイント・留意事項が示されています【図表1】。議論の過程の中で検討された東証所定の書類・フォーマットの提供は見送られ、企業が独自の形式・方法によって、自社の状況に応じた形で開示するよう求められています。また、対応の開始時期(開示時期)についても、できる限り速やかな対応が要請されてはいるものの、具体的な定めはありません。現状分析や検討に一定期間が必要となる場合には、計画策定・開示に向けた検討状況や開示の見込み時期を示したうえ、 計画策定が完了した時点で具体的な内容を改めて開示するなど、段階的な開示の拡充も可能となっています。これまでの取り組み状況にバラつきがある中で、特に対応が遅れている企業に対しては、拙速な対策よりも、実効性のある取り組みを期待していることが伺えます。

【図表1】資本コストや株価を意識した経営の促進に向けた要請の内容
資本コストや株価を意識した経営の促進に向けた要請の内容
(出所)東京証券取引所 市場区分見直しに関するフォローアップ会議 第9回(2023年3月31日開催)資料3「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」に当社加筆

中長期の価値創造実現に向けた重要論点と現状分析

今回の要請においては、PBRが重要指標として取り上げられており、PBRを高めるためには全社での経営全般にわたる取り組みが必要不可欠です。

PBRは図表2のように分解することができ、PBRを高めるためには、(Ⅰ)資本収益性を高めること、(Ⅱ)成長期待(成長率)を高めること、(Ⅲ)資本コストを最適化することが重要となります。これらと相関性が高い状態として短中期の利益創出、中長期の成長戦略策定と実行、経営基盤のアップデートが挙げられます。その上で検討すべき具体的な論点は、①超過利潤の創出、②BS(バランスシート)マネジメント、③成長期待の醸成(成長戦略&成長投資)、④株主還元(ペイアウト)、⑤ESG・サステナビリティ(気候変動・人的資本等)との連動、⑥ガバナンスの高度化(リスクテイクと規律付け)、⑦ステークホルダーとのエンゲージメント(対話と情報開示)となります【図表3】。

PBR改善に向けた取り組みを確実に実行し成果を挙げていくためには、小手先だけの形式的な開示や要請内容のみの必要最低限な取り組みに終始するのではなく、経営トップによるリーダーシップの発揮が重要となります。そのため、まずはこれらの重要論点について、網羅的に自社の取り組み状況に関する現状分析を行って、価値創造につながる実効性のある本質的な取り組みに着手していくことが求められます。

【図表2】価値創造の代理指標と重要な論点
価値創造の代理指標と重要な論点
(出所)当社作成
【図表3】PBR改善に向けた論点・施策と成果に至るまでの経路
PBR改善に向けた論点・施策と成果に至るまでの経路
(出所)当社作成

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