Z世代を読み解く(4)~若手のモチベーションを高めるコミュニケーション(2)~
前回のコラムでは、デジタルネイティブである若手の特徴についてご紹介しました。本稿では、その特徴に基づいて、上司・先輩らが若手に取るべきコミュニケーション手法について考えていきましょう。
タイパ重視の価値観を踏まえて関わる
前回のコラムでは、デジタルネイティブの特徴として、欲しい情報をすぐに入手する習慣が定着し、タイムパフォーマンス(タイパ)という、できるだけ無駄を省いて成果を求める傾向があることをご紹介しました。こうしたタイパ志向を踏まえた関わりとして効果的なのは、➀必要な情報の8割は先に渡すこと、➁「For You アプローチ」で動機付けることです。
➀必要な情報の8割は先に渡す
必要な情報とは、仕事の進め方に関するテンプレートやヒント、助言、仕事の意図や目的などを指します。上司・先輩としては、主体性を育むべく、こうした情報を先に渡さないことがあるかもしれません。しかし、若手は、一定の方向性や着地点が見えているならば、それを参考に進めた方が間違いも少なく効率的と考えます。仕事でミスをした際も、「何でこうなったと思う?」と問われ、時間のかかる内省を促されるよりも、簡潔に問題点を指摘される方が効率的だと考えるのです。ただし、先に10割の情報を渡すだけでは、若手は上司・先輩の「操り人形」になってしまい、成長にもつながりませんし、若手自身もやりがいを感じなかったり、自身の扱われ方に対して不安に感じたりしてしまう可能性があります。8割程度の情報はあらかじめ示し、残りは若手の主体性・独自性を発揮させる余地として残しておくのが望ましいでしょう。
➁「For You アプローチ」で動機付ける
「For You アプローチ」とは、組織視点ではなく、本人にとってのメリットとひも付けた動機付けの方法です。青山学院大学陸上競技部の原晋監督は、「注目されている箱根で良い結果を出せば、就職がかなり有利になるぞ」など、チーム目線ではなく選手目線で鼓舞し、練習への意欲を引き出しているといいます。これを社会人に置き換えると、たとえば若手が無意味な残業を避けたがることを考慮して、「タイムマネジメントについて研修を受ければ、スキルアップしてより早く帰れるようになるかもしれないぞ」と伝えれば、学習意欲を喚起できそうです。
失敗への許容性を示して発言する勇気を持たせる
前回のコラムでは、デジタルネイティブである若手には、仲間外れにならないようキャラクターを使い分け、相手の言動を踏まえてアクションを決める傾向があることもご紹介しました。ここでも彼/彼女らの主体性を育むべきという意見が上がりがちですが、そのためには価値観そのものを変容させるような教育プログラムが必要になります。より短期的な効果を期待するならば、まずは上司・先輩から積極的な自己開示を行うことが望ましいでしょう。
例えば、若手が失敗を報告せずに大問題につながってしまうケースの裏には、叱責されることへの恐怖感があります。会議で発言しないケースにも、自分の意見を否定されることへの懸念があります。付き合いの浅い上司・部下の関係性では、仮に上司が「怒らないから何でも言ってね」と伝えても、部下は文字通りには受け取りません。こうした場合、失敗への許容性を示すべく、上司・先輩自身の失敗談や苦手分野について開示しておくことが有効です。相手の言動を踏まえてアクションを決める傾向にある若手は、「私の失敗について、そんなに怒らず聴いてくれるかも」、「この分野なら私の意見も大事に扱ってくれるかも」と自ら解釈し、一歩踏み出す勇気を持った行動につながる可能性があります。また、その際に指導や助言を行う場合は、まずは勇気ある発言をたたえ、その後にアドバイスを送る方が、より心に届くでしょう。
こまめに「いいね」する
デジタルネイティブにとって、SNS上の「いいね」はリアル社会の承認と同義で、「いいね」が返ってこないと不安を感じます。コミュニケーションとして、一つひとつの言動に対して小さな承認を繰り返すこと、レスポンスの早さが重要となります。
その際、望ましい行動や過去と比して成長している点に言及してほめるだけではなく、ささやかな行動にも注目すると効果的です。SNSでの「いいね」は、その発言内容が絶賛に値するものでなくても慣習的に付けられる傾向があり、特に仲間内では「見たよ」のサインに近いものです。たとえば、出社時に「Bさん、おはよう」とあいさつすることは存在承認であり、頼んでいた書類を作成して提出してくれた際、「ありがとう」と伝えることは行動承認と言えます。出社や頼まれた雑務の遂行など、彼/彼女らのささやかな行動に対しても即座にレスポンスすることで、要らぬ不安を抱かせずに済むでしょう。
まとめ
前回と今回のコラムでは、デジタルネイティブと呼ばれる若手の特徴について、デジタルツール発達以前に育った世代とでは、異なる価値観を有している点を解説し、その価値観に応じたコミュニケーション手法をご紹介しました。相手が外国人であれば、育ってきた文化や環境の違い、それに基づく価値観の違いをおおらかに受け入れることがあるかと思います。世代間ギャップへの向き合い方も同様で、属性や背景の異なる人々とうまく付き合っていくことは、多様性へのインクルージョンのひとつともいえます。自分たちの「常識」を当てはめるのではなく、違いをありのままに受け入れてみる姿勢が大切ではないでしょうか。
【参考文献】
原田曜平『若者わからん!ミレニアル世代はこう動かせ』185-191頁(株式会社ワニブックス、初版、2018年)
平賀充記『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』82-83頁(株式会社アスコム、初版、2019年)
【関連サービス資料】
Z世代リテンションプログラム
【関連コラム】
Z世代を読み解く(1)~協働のためのZ世代理解~
Z世代を読み解く(2)~Z世代のモチベーションの源泉とは~
Z世代を読み解く(3)~若手のモチベーションを高めるコミュニケーション(1)~
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