身寄りのない方の死後事務支援を考える

2022/03/29 岩室 秀典、伊與田 航
医療福祉政策

身寄りのない方が準備せずに亡くなると、周りの人は右往左往

わが国では、現在、約140万人(厚生労働省:2020年人口動態統計)の方が1年間に亡くなる多死社会を迎えています。高齢者の一人暮らしは約670万人(総務省:2020年国勢調査)にのぼり、頼れる子どもや親族がいない、近所の人や友人と疎遠になっているなど、身寄りがなく亡くなる人も増えてきています。

亡くなった後に必要な死後事務として、葬儀・火葬・納骨、死亡届や社会保険などの行政手続き、電気・水道・郵便・クレジットカード・インターネットなど各種契約の解除・精算、医療費・賃料等の支払い、相続手続き、家財・遺留品の保管・処分など、時間や労力がかかります。また、これらの費用はあっという間に百万円を超えていきますが、亡くなった時点で預貯金の引き出しは大きく制限され、最終的に相続人の調整・同意が必要なことが多々あります。

お子さんがいない場合、普段やりとりをしていない遠方で暮らす高齢のきょうだいや甥や姪に連絡が入るケースでは、ご本人の考え・暮らし・資産や負債の状況が掴めない中、すぐに葬儀・支払・契約解除・処分などさまざまな判断が求められます。また、きょうだいが高齢かつ遠方で暮らしているため対応ができなかったり、関わりがほとんどないことから引き取りを拒否したりすることも見受けられるようです。

墓地・埋葬等に関する法律では、埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が行うこととされています。その費用は税負担となりますので、生活保護に準じた対応となり、葬儀が行われないなど最低限の対応になることも多いようです。相談や介護サービスなど市町村とつながっていなかった身寄りのない方が亡くなると、市町村の担当職員は、どのような親族がいるかの確認から始まり、久しく連絡を取っていない親族への連絡など、本人のことが分からない暗中模索の中で死後事務を担うこととなります。

このように、身寄りのない方が、その準備なく亡くなると、ご本人が望む葬儀・納骨・相続ができないことはもとより、周りの人に大きな負担をかけてしまいます。

身寄りのない方が生前に準備ができ、確実に事務を実施できる社会づくり

まず、身寄りのない方自身が、自分の望む葬儀・納骨や相続等が行われ、周りの人に多大な負担をかけないように、終活に関する情報を集め、もしものときのことを考えてみる必要があります。テレビでの終活のニュースや特集、配偶者の他界、入院や介護サービスの開始時などは、このことを考えるきっかけになります。周りの人と話をしてみたり、エンディングノートにどのように書くかを考えたり、すぐに決断できるものでもないので、気持ちや取り巻く状況が変化することを念頭に置く必要があります。考えが定まるようであれば、相続について法的な効力のある公正証書遺言や自筆証書遺言を行ったり、葬儀会社・法律事務所・社会福祉法人・NPOなどに死後事務委任契約をしたりすることも考えられます。生活困窮や生きづらさを抱えている場合は、地域包括支援センターなど市町村の相談機関とつながり、認知機能の低下がみられる場合は、成年後見制度の利用も視野に入ります。まだ、その数は少ないのですが、市や社会福祉協議会で死後事務支援事業に取り組む動きもみられます。

国は、本人・周りの人・行政機関・事業者の動きをサポートするために、一人暮らしで亡くなることを想定した社会制度への転換を図る必要があります。遺言等は以前より利用しやすくなってきていますが、死後事務の大手事業者が破産するなど、安心して民間事業者に依頼できる環境とはいえません。死後事務関連事業に対する消費者保護と業界の健全な育成、医療費・介護費用への支払いの円滑化、借家における借家権や遺品処理など大家の負担軽減など、考えなければならないことが山積しています。

このように、身寄りがない方が亡くなることを想定し、本人、親族・知人、民間事業者、公的機関などが活動しやすい環境をつくり、本人の考えや取り巻く状況をふまえて、生前から準備できる社会づくりが求められています。

それぞれに求められる役割

本人・親族等 終活について、考え、話し合い、記録する
新たな社会に向けた制度等の基本設計(終活の啓発、相続、費用の支払い、遺留品の取り扱い、借家権、業界の健全育成)
市町村 基本的な対応体制づくり(担当職員、事務手続き、関係者とのネットワーク)地域包括ケアシステムの1施策としての終活・死後事務支援(市民への啓発、対象者の把握・相談・情報提供、低所得者への対応)身寄りのない方の火葬等(業務委託も含む)
事業者 葬儀会社・法律事務所・社会福祉法人・NPOなどそれぞれの特徴を生かしたサービスの提供、業界として安心して利用できる体制づくり

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