今月のグラフ(2019年10月)「株主第一主義見直し宣言」からの示唆

2019/10/07 中塚 伸幸
今月のグラフ
国内マクロ経済

米国の経営者団体であるビジネス・ラウンドテーブルがこれまでの「株主第一主義」を見直し、顧客、従業員、サプライヤー、地域社会など幅広いステークホルダー(利害関係者)の利益を重視する方針を宣言した。180人を超える主要企業トップによる署名を含めて公表したもので、伝統的な米国の経営のあり方からの転換かと注目されている。
もっとも「宣言」は1ページのシンプルなもので、本当に方針を大きく転換したのか、あるいは高額報酬等への批判を抑えるために努力姿勢を示したに過ぎないのか、見方は分かれる。また、そもそも「企業の責任は利益を上げることだ」とする考え方も強く、こうした立場の投資家からの反論も出ている。とはいえ、一定の見直し機運があることは事実であろう。
株主重視の度合いを示す一つの数値として、株主への還元である「配当支払額」と従業員への還元である「雇用者報酬額」(いずれもSNAベース)を対比した比率を、日米それぞれについて図表1に示した。2017年時点で日本は雇用者報酬に対する配当の比率は0.11であるのに対し、米国は同じ比率が0.16と日本より高く、株主重視の度合いが強いといえる。また、配当とは別に、株主還元には自社株買いという手段もあり、この点も勘案すれば米国の「株主第一主義」はより鮮明になろう。
一方、わが国も近年、株主重視の姿勢は強まってきており、90年代に0.02程度で横ばいであった上述の比率は2000年代以降上昇トレンドを続けている。この点では、日本は米国型の経営に近づきつつあるといえよう。そうした中で米・経営者団体の「見直し宣言」があったわけであるが、日本企業の経営は伝統的に「三方よし」に象徴されるように、株主だけでなく顧客、従業員など複数のステークホルダーに配慮する面が濃く、今回の「宣言」にあまり違和感はないように思われる。
ただ、日本においても配当対雇用者報酬の比率が高まっていることは、配当の伸び方に比べて雇用者報酬の伸びが弱いことを示すものでもある。図表2に法人企業統計ベースで、わが国企業の配当金と人件費の推移を示したが、近年の人件費の伸びは弱い。これは、人件費コストを抑える一方で海外収益等により利益と配当を拡大してきた企業努力の成果でもあるが、やはり持続的な成長に向けては、従業員への還元にもあらためて目を向けるべきであろう。米ビジネス・ラウンドテーブルの宣言は、従業員に関しては「従業員への投資(Investing in our employees)」と記されている。わが国企業にも、生産性向上を通じた賃金の引上げと、それを可能にする従業員のスキル向上への支援が求められているといえよう。・・・(続きは全文紹介をご覧ください。)

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