ポストコロナ時代に備えた日本人の観光意識について2022年度上半期、若年層は旅行を再開したが、高齢層は引き続き旅行離れが進んだ

2023/09/13 前河 一華、石黒 隆子、萩行 さとみ、𠮷田 悠起
観光
旅行
防災
デジタルツール
関係人口

2022年は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に伴う外出自粛要請等が行われた一方で、疲弊した観光産業を支援するための全国旅行支援や県民割といった政策展開により、旅行推進の動きも加速した。ポストコロナ時代に向かう中で、人々の観光行動や意識の変化をデータで捉え、その分析に基づいてポストコロナ時代の誘客戦略を立案することが求められている。

また、近年は災害の頻発化・激甚化、DXの進展、人口減少等、観光地を取り巻く状況が目まぐるしく変化していることも挙げられる。そこで弊社では、22年11月に『「新しい日常」における「新しい観光」にかかるアンケート調査』を行い、感染症の影響が長引く中での旅行行動や意欲の変化、観光客の防災意識や観光地におけるITツールの利用状況、「関係人口」化の状況を調査することで、人々の観光意識を把握した。

22年度上半期(22年4月~22年9月)時点での経験について確認し、結果を整理している。

<「新しい日常」における「新しい観光」にかかるアンケート調査> 概略

調査時期:2022年11月
調査方法:アンケートモニターに対するネットアンケート
調査対象:20歳以上の1,000名

※性別2区分/年齢階級別5区分(20歳代、30歳代、……、60歳代以上)に各100人の標本割付を実施
※構成比の算出にあたっては、令和2年国勢調査の性別年齢階級別人口比に応じた調整係数を乗じて補正

調査項目:下記の通り。

1. 2022年度上半期の旅行行動・旅行意欲
(1)2021年度と比較した旅行行動の変化/(2)2021年度と比較した旅行意欲の変化/
(3)旅行期間/(4)交通手段
2.観光客の防災意識
(1)旅行前の防災行動/(2)旅行中の防災行動
3.観光客によるITツールの利用状況
(1)ITツールによる体験の内容/(2)ITツールを使った体験による観光地への興味の変化/
(3)観光地のチラシやweb広告と比較したITツールを使った体験の価値/(4)ITツールによる体験したい内容
4.関係人口化の状況
(1)関係人口として関わりを持つ地域の有無/(2)関係人口化のきっかけ

結果概要

1.2022年度上半期の旅行行動・旅行意欲

2022年度上半期における旅行行動・旅行意欲や、その変化を確認した。

(1)2021年度と比較した旅行行動の変化

  • 従来から旅行習慣がある方は、国内旅行(日帰り旅行・宿泊旅行)では全体の8割程度、海外旅行では全体の5割弱である中、旅行実施率は、国内旅行は5割程度、海外旅行は1割強であり、旅行を増やした方は、国内旅行で1割程度、海外旅行では2.0%に留まる。
  • 年代別では、20歳代では旅行回数を増やしたとしている割合が高いが、年齢が高い層では「旅行回数がゼロ」の割合が増えている。

(2)2021年度と比較した旅行意欲の変化

  • 国内旅行では、旅行意欲が上昇した方が3割程度、旅行意欲が下降した方と旅行意欲がない方は合わせて3割程度であり、旅行意欲が上昇した方と、意欲が低下・意欲がない方の割合が均衡している。
  • 海外旅行では、旅行意欲がない方は全体の5割程度を占めている。旅行意欲が上昇した方は2割弱であり、国内旅行と比較して旅行意欲の上昇幅が小さい。
  • 年代別では、年齢層が低いほど、旅行意欲が上昇した方の占める割合が高い。性別では、国内旅行では男性よりも女性の方が、海外旅行では女性よりも男性の方が、旅行意欲が高い。

(3)旅行期間

  • 全体では「1泊」が占める割合が4割弱と最も高く、次いで「日帰り」が3割程度、「2泊」が2割程度と、短期の旅行を実施した方が多い。
  • 年代別では60歳代以上、性別では女性に比べ男性の方が、3泊以上の泊数を選択した割合がやや高い。

(4)交通手段

  • 自宅から旅行先までの交通手段では、自家用車・自家用バイクを利用した割合が5割弱を占めた。
  • 交通手段と宿泊日数を比較したところ、2泊以上の旅行では、自家用車・自家用バイクの利用率が全体平均より低い場合が多く、旅行期間が長期である場合、公共交通機関の利用率が上昇しているとみられる。

2.観光客の防災意識

過去に旅行した際の防災行動を尋ね、観光客がどの程度防災意識を持っているのかを把握した。

(1)旅行前の防災行動

  • 旅行前に防災行動をとったことがある方は全体の1割に満たず、多くは旅行前に防災行動をとったことがない。
  • 年代別では、年齢が低い層ほど旅行前に防災行動をとったことのある割合が高い。

(2)旅行中の防災行動

  • 旅行中の防災行動として、防災標識の確認をしたことがある方は2割程度、旅行先での防災関連資料の確認をしたことがある方は2割弱、インターネットを活用した防災関係情報の調査を実施したことがある方は1割強で、地元住民からの情報収集を実施したことがある方は1割に満たなかった。
  • 年代別では、いずれの行動においても年齢が低い層や年齢が高い層ほど防災行動の経験割合が高い。なお、年齢が低い層ほど意識的な行動(積極的に確認し、記憶する等)の経験割合が高く、年齢が高い層ほど受動的な行動(意識していないものの情報を見かけたことがある等)の経験割合が高くなっている。

3.観光客によるITツールの利用状況

(1)ITツールによる体験内容

  • 観光地でITツール等を使った体験を実施したことがある方は全体の4割弱である。
  • 性別でみると、男性の方が経験割合が高く、年代別では、若年層ほど経験割合が高い。
  • 体験内容としては、「歴史的出来事を体験したり歴史的建物を訪問する」の割合が最も高く、次いで「スマートフォンのカメラ等をかざし情報を得る」、「地域のイベントを体験する」の順となっている。

(2)ITツールを使った体験による観光地への興味の変化

  • ITツールを使った体験による観光地へ興味を持った(「さらに興味を持った」または「少し興味を持った」)方は全体の8割弱である。
  • 年代別でみると、特に50歳代や60歳代において「さらに興味を持った」の割合が高い。

(3)観光地のチラシやweb広告と比較したITツールを使った体験の価値

  • 既存のチラシやweb広告に比べて価値がある(「大変価値があった」または「まあまあ価値があった」)方の割合は7割強である。

(4)ITツールによる体験の希望と内容

  • 観光地でITツール等を使った体験をしてみたい方は全体の5割強である。
  • 体験したい内容としては、「歴史的出来事を体験したり歴史的建物を訪問する」の割合が最も高く、次いで「スマートフォンのカメラ等をかざし情報を得る」、「地域のイベントを体験する」の順となっている。

4.関係人口化の状況

人々の日常生活圏以外の地域との関わり方を把握した。

(1)関係人口として関わりを持つ地域の有無

  • 日常生活圏以外で深く関わりを持っている特定の地域がある方(=関係人口化している方々)は全体の2割強であった。年代別では、60歳代ではそのような地域がある方の割合が高かった。

(2)関係人口化のきっかけ

  • 関係人口化のきっかけとしては、「その地域に居住していた」方が4割程度と最も割合が高く、次いで「その地域に親戚が居住していた」、「その地域に観光目的で訪れた」がそれぞれ2割弱であった。これより、観光がきっかけで関係人口化する割合は、関係人口全体の2割弱であるといえる。
  • 「その地域に居住していた」、「その地域に親戚が居住していた」、「その地域に友人・知人が居住していた」、「その地域の近くに居住していた」といった地縁・血縁がきっかけとなっている割合を合計すると7割程度であった。

続きは全文紹介をご覧ください。

執筆者

  • 前河 一華

    政策研究事業本部

    持続社会部 農山漁村振興グループ

    副主任研究員

    前河 一華
  • 石黒 隆子

    政策研究事業本部

    経済財政政策部 都市空間グループ

    研究員

    石黒 隆子
  • 萩行 さとみ

    政策研究事業本部

    地域政策部 データ解析・医療政策グループ

    研究員

    萩行 さとみ
  • 𠮷田 悠起

    政策研究事業本部

    研究開発第1部(大阪) 地域環境防災グループ

    研究員

    𠮷田 悠起
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