1.問題の所在
人類の宇宙活動は、1957年に旧ソ連が打ち上げたスプートニクを皮切りとして、着実にその活動領域を拡大してきた。長らく宇宙活動は一部の宇宙開発能力を有する国家によって独占的に行われてきたが、その後、商業衛星が数多く運用されるようになった。2010年以降は、「ニュー・スペース」とも呼ばれているように、民間事業者を中心とした宇宙開発が急速に進展し、従来の軍事利用や探査的な活動に加えて、宇宙の商業利用が大いに注目されている。
宇宙開発に参加する国や事業者も多様化し、宇宙における活動の幅が広がる中、以前から提供されてきたルールの枠組みでは解決の難しい新しい課題も生じている。また、宇宙ビジネスに取り組む事業者にとっては長期的な事業戦略を検討する上でルール形成の動向は無視できないだけでなく、自らの事業領域を創造していく観点からもルール形成戦略を強く意識する必要が生じている。
日本でも宇宙航空研究開発機構(JAXA)が政府機関として宇宙政策の実行を担いつつ、民間事業者との協働にも力を入れる一方、多くの大企業やベンチャー企業が宇宙ビジネスに取り組んでいる。宇宙基本法に基づいて策定される宇宙基本計画にも宇宙産業を日本経済における成長産業とすることが掲げられ、2020年には4兆円となっている市場規模を2030年代の早期には8兆円に拡大していくとしている[ 1 ]。市場規模の予測についてはさまざまな民間の試算が知られているが、例えばモルガン・スタンレーが公表したレポートによれば、2040年までに1兆ドルを超えると試算されている[ 2 ]等、成長市場としても注目されている。
産業政策上、成長市場において日本企業がどのように活躍できるかという視点は欠かせない一方、宇宙安全保障の確保や、国土強靱化や地球規模の課題への対応という視点からも宇宙政策のかじ取りの重要性が高まっている。日本政府はさまざまな政策上の要請を念頭に、国際的なルール形成の現状をしっかりと踏まえつつ、戦略的な政策立案とルール形成が求められている。また民間事業者においても、これまで蓄積してきた技術やノウハウ、画期的なビジネス構想等を抱えつつも、戦略的な失敗によって市場機会を失うことなく、自らの事業領域の確保と収益機会の確保をしっかりと見据えた長期的な事業戦略を描く必要がある。
本稿では、宇宙政策と宇宙ビジネスにおいて、重要な意義を有するルール形成の現状と課題について整理を行った上で、ルール形成の観点から重要な論点を含むテーマの1例として、宇宙における知的財産(特に特許)制度に係る議論の状況を整理する。こうした整理を踏まえ、今後、必要とされるルール形成戦略と知的財産戦略について試行的な考察を試みる。
[ 1 ] 宇宙基本計画(2023年6月13日閣議決定)10頁。
[ 2 ] Morgan Stanly, Space: Investing in the Final Frontier (Jul. 24, 2020).
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